2024 日本
監督 藤井道人
脚本 小寺和久、藤井道人

冤罪は作られる
343日に及んで逃げ続けた脱獄犯を描く社会派ミステリー。
率直に申しまして、この手の映画って好物でして。
トミー・リー・ジョーンズとハリソン・フォードの逃亡者(1993)しかり(古い例えですまん)、つまらなくなりようがない気がするんですよね、よほどのど素人がやらかさない限り。
ましてや追う側が山田孝之で、監督は藤井道人ときた。
そりゃ期待しますよ、んで、見事期待に応えてくれた、といっていいと思う。
いやはやもう山田孝之の目力ときたら。
あの太い眉だけで演技しちゃうんだからこの人は、ほんとに。
セリフ少ないのに感情がビンビン伝わってくるんですよね。
さらに驚きだったのが横浜流星。
こんなにも多彩な演じ分けができる人だとは思ってなかった。
逃走中に変装を繰り返すんですけどね、全くの別人に見えちゃうんだから大したもの。
そりゃ警察もかく乱されるわ、と至極現実的な納得の仕方をしたり。
物語が進むにつれて、徐々に逃走犯の目的が明らかになってくる構成もよくできてた。
ああ、これは冤罪を問う物語だったんだ、と気づいたころには前のめり。
今って、ちゃんと事実を精査して発言する人よりも、わかりやすい正義を振りかざして想像力の足りない倫理観を押し付ける人がすごく多いように思うんです、ことSNSの世界にいおいては。
印象や思い込みで断罪するのはたやすい、けれどもその印象や思い込みを形作っているものが前提から間違っていたらどうする?と作品は問いかけます。
善人だと信じて手を貸すことが、本当に間違いだったかどうかなんて当事者との関係性の中でしか推し量れない。
それに他人が嘴を挟むこと自体が卑しいことなのではないか?
偏見や猜疑にさらされながらも、逃亡犯を信じる人たちの姿がなんとも美しいんですよね。
私は性善説なんて1ミリも信じていない現実主義者ですけど、この映画を見てると私が思ってる以上に『いい人』って、たくさんいるのかもしれない、と思えてきたり。
ていうか吉岡里帆にかくまわれたりしたら、それだけで真人間に更生してしまいそうな気もするが、えー、そりゃいいか。
で、物語がなんとも皮肉だったのが、困ってる人に手を差し伸べようとする高校生の善意が災厄を招いたが、その災厄を払ってくれたのも不特定多数の善意だった、とする構造。
そりゃ信じてみたくなるよね、世界や人を。
息が詰まりそうなクライマックスからエンディングへのながれがまた劇的で。
面会室にて心情を吐露する逃亡犯、鏑木慶一の独白に涙腺は決壊。
てっきりバッドエンドだと思ってたんで、その揺り返しは強烈。
でも原作はバッドエンドらしいですね、この物語。
ま、その方が物語の主題がひときわ強く印象に残るのは理解できる。
賛否あるんでしょうけど、今回に限っては映像で「救い」を用意してあげたことに私は素直な気持ちで「よかったね」といいたい。
これがケン・ローチだったら絶対最後、ひどく落ち込んでるはずだから。
ケン・ローチ版の「正体」が見てみたかったりもするな、しかし。
ともあれ、見応えたっぷりの大作だと思いますね。
特に若い人は見るべき、と思ったりもしました、おすすめ。
ねじレート 89/100

