2025 日本
監督 永井聡
脚本 八津弘幸、山浦雅大

圧巻の密室会話劇、最後まで緊張感途切れず
連続爆破事件の主犯と思われる人物と、尋問を担当する刑事の取調室における丁々発止なやりとりを描いたサスペンス。
おそらく言及してる人もいると思うんですが、観進めていくうちに、私はレクター博士(羊たちの沈黙)を思い出したりしましたね。
犯人ではないかと思われてるスズキタゴサクとレクター博士じゃキャラクター像もその背景も全く違う、と言われそうですが、得体の知れなさといい、煙に巻くようなことばかり言う詐欺師顔負けの話術といい、内面がすごく似てる気がするんですね。
地頭が凄くよさそうなのも共通点だと思うんです。
レクター博士は精神科医、スズキタゴサクは元ホームレス、と社会的地位は全く違うわけですけど、相手にしているといつの間にか飲み込まれてしまいそうになる怖さがまたそっくりでね。
取調室に拘禁されているのに、外では勝手に爆破事件が進行していて、警察はそのヒントをスズキタゴサクに求めるしかない、という展開も羊たちの沈黙をなぞったようで。
もちろん枝葉末節やデティールに差異はあるんで、これがパクリだとか猿真似だとか、そんな風に糾弾するつもりはないんですが、これを『日本版の羊たちの沈黙』と捉えてもあながち間違いでもない気がします。
逆に言えばそう感じさせるほどシナリオ(原作?)が緻密で出来が良かった、ということ。
いや普通ね、この手の密室会話劇中心で2時間近く緊張感維持できないですよ。
どうしても絵的に地味になるし、セリフが多すぎることに中だるみを感じたりしますから。
随所随所で取調室の外側のシーンを挟んだことが飽きさせなかった要因かもしれませんが、それを勘定にいれなくとも圧巻だったのはやはり佐藤二郎の怪演と、それを見事に受けきった山田裕貴のうまさでしょうね。
普段、コミカルな演技ばかり披露してる人に真逆の役柄を振ったらとんでもないことになった、ってのは往々にして目にするケースですが、それにしたって佐藤二郎、怖すぎるわ、って。
もうサイコパスやんか、と。
あの風貌でサイコパスな演技されるともうね、あまりにもとらえどころがなさ過ぎて。
裸の大将みたいな間抜けヅラで常に先手を行くトークを披露するってのがギャップ凄すぎて目が離せない、というか。
佐藤二郎劇場、なんて揶揄を見かけたりもしますけど、私はこのキャスティングで大成功だと思いましたね。
小太りで10円ハゲの中年男が警察をかく乱するサスペンスとか、見たことないし。
とにかく最後まで予断を許さないんですよね。
あまりに情報量が多い上に物語の密度の濃さも半端じゃないんでついていくのが大変だったりはするんですけど、それが観客を突き放さず、惹きつける方向へうまく働いているというか。
よくぞまあ、これだけの膨大なエピソードを2時間にまとめたよな、と感心したりも。
ただね、2時間におさめたことの弊害もないわけではなくて。
見せ場たっぷりではあるんですが、最後まで全力で走り抜けたせいでこぼれ落ちてしまったものもいくつかあって。
最大のネックは、すべからく動機がはっきりしない点でしょうね。
スズキタゴサクの役回りや、どうしてそうなったのかは最後に把握できるんですが、なぜそうなったのか?どうしてそうしたのか?がいまいちあいまいなんです。
これを駆け足でまとめたせい、と言ってしまうのは気の毒すぎると思うんですが、街を爆破するまでに至った心情をね、もう少し丁寧に描いていたら未曽有の大傑作になってたように思いますね。
あと、スズキタゴサクが凄すぎて元ホームレスとか、ありえんだろ、こんなやつはいないと少し思ったりもしたんですけど、それはまだ正体が明かされてないだけなのかも、とあとから考え直してみたり。
悩ましいところですね。
だとしてもやっぱり面白い、ってのは偽らざる感想だったりはするんですけどね。
原作では続編あるみたいなんですが、できればそちらも映像化を。
続編ですべてが明らかになるんでは、と勝手に想像してたりします。
話題なったのも納得の一作ですね。
見て損なし。
ねじレート 88/100

