2006年初出 加藤伸吉
講談社モーニングKC 全5巻

惑星スタコラと呼ばれる星で生活する、地球からの移民たちの奇々怪々な暮らしぶりを描いたSF大作。
しかし、何を思って作者は前作バカとゴッホ(1997~)の後に、他天体の話を描こう、などと思い至ったんでしょうね?
まったくジャンルが違うと思うんだが。
ま、意気込みだけはすごかった、と思います。
2006年にここまで想像力を駆使して壮大なSF描いてる漫画家はいなかったでしょうし。
講談社はよく許したもんだなあ、と思いますね。
こんなの、絶対に広く支持されないと思うんですけどね。
モーニング・ツーという掲載誌の性格故ゆえか。
実際、4巻の途中から連載ではなく、描きおろしになってますしね。
人気、伸び悩んだんだろうなあ。
ぶっちゃけ、序盤から振り落とされる人は大量にいたと思います。
最大の難点は、作者の頭の中にしか存在しない他天体の人々や風景、小道具、メカ等を描くうえで、あんまりイマジネーション豊かじゃなかったことでしょうね。
あけすけに言ってしまうなら、そんなに絵が上手じゃない。
これが寺沢武一や板橋しゅうほう、大友克洋(士郎正宗でもいいけど)なら「なんじゃこりゃ」って読み手が仰天するような、誰も見たことのない何かを形にしていたと思うんですね。
加藤伸吉、はっきり言ってたどたどしい。
なんか変にごちゃごちゃしてるだけで、ひとつ間違えたら子供の落書きみたいに見えることもままあり(特に車や飛行機)。
人体の背中にチャックがついてて、中に魂根と呼ばれる別人の人格が入ってる、とした発想や、怨霊や呪いと言ったオカルトが物理現象として扱われてる世界観は悪くなかったんですが、いかんせんそれを絵にする力量が足りてない。
コマ割りや、遠近法がギャグ漫画っぽいアプローチなせいもあったかもしれない。
シナリオ進行を支える物語の背景の構築も、あんまり上手だったとは言えない。
どうやら惑星スタコラは超管理社会っぽいんですが、それが主人公キズのストーリーを支えていかないんですよね。
なんか知らんが主人公、苦悩してるっぽいんですが、それはそれ、世界は世界、って感じで物語の構成因子がお互いに絡み合わないんです。
なんとなく全体の輪郭がはっきりし、血が通いだしてくるのは4巻ぐらい。
立ち上がりが遅すぎるわ!って話で。
造語が多すぎるのも良くなかった。
こんなの、メジャーで許されたのは後にも先にも攻殻機動隊ぐらいで。
何を言ってるのかわからんし、何を伝えようとしてるのかもわからなすぎて。
私なんざ3巻ぐらいまで「これはひょっとして幻想文学なのか?」と疑ってたほど。
おそらく社会の変容と再生を寓話風に描きたかったんだと思うんですが、描いてる本人がどこか手探りなんですよね。
作者の資質が、この手のSFに向いてない、それがすべてでしょうね。
ただね、向いてないのにもかかわらず心血注いで描いてることは伝わってくるんで、おかしな熱量というか、高密度な迫り方をしてくるのは確かなんです。
泥臭いし、描きおろしになってから急に別の漫画みたいになるし、最後まで読んでもなんだかすっきりしないし、どっちかというと同人というか、プロとして洗練されてない気もするし、楽しめましたか?と問われれば少し考え込んでしまう、ってのが実状ですが、それでもこの漫画はよくわからない爪痕を読んだ人の心に残すように思いますね。
それがなんなのかは説明不能。
カルトで怪作なのは間違いないです。
QJマンガ選書にはまった人とかはど真ん中ストライクかもしれません。

