2025 ドイツ
監督、脚本 クリスティアン・チューベルト

領事館内という治外法権に単身挑む母を描いた痛快作
フランクフルトのアメリカ領事館にて、忽然と姿を消した息子を探すべく、単身領事館内を探索する元特殊部隊出身の母親を描いたアクションスリラー。
つい最近ザ・マザー(2023)を観たばかりなんでキャラクターの基本設定が凄く似通ってるように感じたんですが、もはやこの手の映画はジャンル化しつつあるような気さえするんで、とやかく言っても詮無きかな、と。
きっと楽しんだ方が勝ち。
で、そんな既視感たっぷりの有象無象の中にあって、この作品が独特だったのは、アメリカ領事館という治外法権を『密室』に見たてて、主人公に探らせた点にあるといえるでしょう。
ドイツ政府だってうかつに手を出せない領域で、女一人がどこまでやれるのか、たとえテンプレートといえど、そりゃ、手に汗も握ろうってなもの。
「いや、あなたはもともと一人で領事館にいらっしゃいましたよ?」と主人公に館内ビデオを提示して、序盤早々視聴者を煙に巻く手管も上手。
え、これはひょっとして母親の妄想なのか?PTSD患ってるらしいが、現実を認識できないほどひどくなっちゃってるのか?と、俄然、物語を見る角度も変わってきちゃうわけですよ。
ふとヒッチコックの「バルカン超特急」(1938)や「バニー・レイクは行方不明」(1965)を思い出したり。
そうなってくるともうミステリですからね、料理の仕様によっちゃあ、心理ホラー路線に転ぶことすら考えられる。
いやそりゃさ、トレーラー見りゃある程度想像つくし、アクションなんでしょうけどね、ひょっとして・・・と勘繰らせるシナリオ設計が職人肌というか。
領事館内で軟禁されているイリーナの存在なんてその最もたるもの。
なんで領事館内にロシア人が?ってなもんで。
「我々の知る領事館じゃねえぞ、これ・・・」と、あれこれ疑ってかかってしまう仕掛けが万端なんですね。
物語終盤でようやく真相が明らかになるまで、先の予測がつかない緊張感があったことは確か。
また、どう展開していくのか予断を許さないストーリーながら、事態を打開していくのは、母親の、体を張った実力行使のみ、というのも小気味良し。
さすが元特殊部隊だけはあって男にも引けを取らぬ戦闘術が圧巻で。
武器の扱いもさることながら、動作設計が現代MMAに近い動きなんですね。
ちゃんと軍隊格闘術を下調べしてるし、主演のジャンヌ・グルソーは相当なトレーニングを積んでると思います。
あんまりドイツ映画に詳しくないんですが、本作のアクションに関しては欧米にも引けを取らぬ仕上がりだったように思いますね。
クライマックスの作劇もあざやか。
まさかそんな手を使うとは・・・から、最後の最後で大逆転の筋書きがなんとも爽快で。
若干ね、わかりにくいというか、ごちゃごちゃしちゃった部分はあるんですが、手の込んだシナリオといい、主人公の見せ場だらけの立ち回りといい、良質な一本だと思いますね。
スリラーとアクションの融合がうまくいった好例ではないでしょうか。
ねじレート 86/100

