2023 韓国
監督 キム・テゴン
脚本 キム・テゴン、パク・ジュスク、キム・ヨンファ

緻密に計算されたシナリオが迫力の映像を支える優れたパニックスリラー
橋上での自動車多重追突事故にまきこまれ、救助を待つ116人を襲った予想外の悪夢を描いたパニックスリラー。
いわゆる閉じ込められた状態でのサバイバルものなわけで、ぶっちゃけ新感染(2016)と似た質感を有してたりはします。
あちらはゾンビ、こちらは軍部が秘密裏に改造した軍用犬、と襲い来る対象に違いはありますが、徒手空拳でなんとかしなきゃいけないのは同じ。
ゾンビみたいに感染しないだけまだマシなんじゃないの?と考える人もいるかもしれませんが、その分軍用犬はスピードありますからね。
弾丸みたいにすっ飛んできて人に牙突き立てる描写はなかなかのスリル&怖さ。
どうあれ、新感染をある程度お手本としているのは間違いないでしょうね。
最初はフランク・ダラボンのミスト(2007)みたいなことがやりたいのかな?と思ったんですが、違いましたね。
で、新感染をお手本、というと、なんだ二番煎じなのかよ、と否定的に受け止められそうではありますが、これがどうしてどうして、同根ながらも咲かせた花は想像していたよりも大輪でみずみずしくて。
全く期待してなかったんですけどね、お話が進むにつれてどんどん面白くなっていくんですよ、この映画。
やはり優秀だったのはシナリオでしょうね。
細部に神経が行き届いているというか。
序盤でちらっと触れた小道具や、登場人物の特技なんかが、すべて布石となって終盤で活きてくることにまずは感心。
回収の仕方がなんとも鮮やかで。
一難去ってまた一難な、決死の脱出行をえがいた演出も小憎らしいの一言。
後半、橋が崩落しかかるんですが、これはもう絶対ダメだって!と言いたくなるような場面においてさえ簡単に救いを用意しないんですね。
どこまでやきもきさせる気だ!みたいな。
観客をハラハラさせる手管は一級品と言っていいでしょう。
共に危地を潜り抜けていくことで、登場人物たちのキャラクターが少しづつ変化していく描写もうまいの一言。
レッカー車の運転手や青瓦台の行政官なんて最後もう別人みたいになってますしね、でもそれが納得できる変貌ぶりだったりするんですよ。
これはストーリーの積み重ね方が上手だった証左と言えましょう。
この場面で、それを持ってくるのか!と涙腺直撃な隠し玉を最後に手配してるのも見事。
娘のカバンを回収したのはそのためだったのか、と思わず膝を打つ。
ま、正直、改造された軍用犬とか、迫りくる脅威としては絵的に弱いと思った部分もあったし、エンディングは予想通り過ぎて笑ってしまった部分もあったんですが、ここまで出来の良い物語を迫力の映像で展開されると出かかった文句も引っ込む、ってなもので。
ハリウッドと比べても全く遜色のない秀作だと思います。
個人的には最近の韓国映画の中じゃ久々の当たりですね。
ちなみに序盤、いきなり選挙対策に奔走する主人公のシーンから始まるので「あれっ?再生するデータ間違ってない?」と不安になりますが、ご安心を。
しばらくしたらド迫力の多重衝突シーンで一気に持っていかれますから。
広くおススメできる一作かと。
ねじレート 89/100

