侍タイムスリッパー

2024 日本
監督、脚本 安田淳一

落雷のショックによって、京都太秦撮影所にタイムスリップした幕末の会津藩士を描いたコメディ。

自主制作映画ながら最終的には全国100館で公開される大ヒットを記録し、日本アカデミー賞までも受賞した2024年話題の一作ですが、うーん、これ、どうなんでしょ。

いや、面白かったですよ、普通にね。

テレビ時代劇の裏側を、本物の侍を通して描くことで、失われゆくものに対する愛情、憐憫を伝えんとする手法は悪くなかったですし、過去の怨恨を現代の物語とシンクロさせるシナリオも、思わぬ緊張感を作品にもたらしていて予想外に楽しめたことは確か。

ただねえ、これが日本アカデミー賞で2024年最大の収穫とか、言われちゃうと困ってしまうわけですよ。

基盤切り(2024)の立場はどうなる、って話だ。

この作品が時代劇として高く評価されるなら、基盤切りはさらにその上を行ってなくちゃおかしいはずで。

ま、基盤切りの位置には十一人の賊軍(2024)でもいいですけどね。

相対的な熱量も、技量も、演出も、役者の質も、シナリオの出来も、「基盤切り」や「十一人の賊軍」と差があるのは明白なのに、なぜ侍タイムスリッパーなんだ?と。

いや、ダメだとか良くないとか言ってるわけじゃないんです、ちょっと落ち着いてくれよ、と言いたいんですよね。

インディーズの割にはよかったね、でいいじゃない、って。

なんで2024年度日本映画の最高峰みたいな扱いになっちゃうの?と。

んで、ブームに便乗するかのように本作を絶賛する輩が次から次へと湧いて出て来るのを見るにつけ、いやいやお前ら普段絶対に時代劇見てないだろうし、黒澤明も溝口健二も小林正樹も知らねえだろ?せいぜい必殺仕事人か暴れん坊将軍程度の見識で「最高の作品」とかのたまわってんじゃねえ!と、つい苛ついてしまったり。

むしろ過大な評価は作品の本当の価値を歪めてしまうことになると思うんですが、制作側はどう感じてるんでしょうね?

私に言わせればこの作品、とにかくベタです。

近年稀に見るぐらいベタベタだと思う。

それが恣意的なものなのかどうかはわかりませんが、あまりのベタさ加減に、なんか昭和の2時間テレビドラマを見てるかのような錯覚さえ覚えたり。

また、主人公の侍が本当に都合よく現代に馴染んでくれてねえ。

江戸時代から令和ですよ、相当なカルチャーギャップがあってしかりのはずが、主人公、あっさりテレビ時代劇の切られ役に活路を見出したりしちゃってるもんだから、あたしゃ呆気にとられた。

昨日まで真剣で命の奪い合いをしてた人がこんなに簡単に馴染めるものなの?と、その無定見ぶりにひどく安っぽさを感じたり。

申し訳ないけれど、よく引き合いに出されるカメラを止めるな(2018)ほどの才気や独自性はない。

そこは比較しちゃあ、可哀想。

ま、コメディなんでね、そこまで意地悪に批評しなくてもいいじゃない!と言われてしまいそうですけど、コメディにはコメディの不文律ってのがあって、なんでもやっていいというわけでは決してなくて。

この作品のようにコメディの体でドラマチックにまとめたいのなら、なおさら。

繰り返しますが、ダメだと言ってるわけじゃないんです。

この作品にそこまで熱中するなら、現代においても時代劇映画へ果敢に挑戦する映像作家たちにもっと注目してやってください、と言いたいんです。

本作が伝えたいことも、まさにそれだと思うんで。

ベタで昭和テイストでご都合主義的で低予算だが、時代劇に対する愛情が溢れているのには共感できたし、素晴らしいと思った、それが侍タイムスリッパーに対する正しい評価なのでは?と私は思いますね。

なんだか変に狂騒的になっちゃってるのが「なぜ、そこまで?」って感じですかね。

ちなみにこの映画のお陰で、もし時代劇が復興を遂げるようなことがあるなら、私ごときがあえて口出すようなことはなにもございません。

その時は全文撤回して謝る、いや、すまん。

ねじレート 72/100

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