2011年初出 松本次郎
新潮社バンチコミックス 全7巻

さて、松本次郎のことはウェンディ(1996~)の頃から知っていて、フリージア(2003~)も全巻読破してたりするんだけど、好きな漫画家ですか?と問われると「微妙・・・」と答えてしまうラインにいつもいらっしゃって。
あんまり積極的には追いかけてないんだけど、新しい単行本を見つけるとつい読んでしまう程度には気になってたりはするんですけどね。
なんでそんな風に奥手な感じなの?と問われると「当たりハズレが大きいから」と答えるしかなくてですね。
買うには買ったが売り飛ばした本も数しれず。
描き込みの細かい絵やはじけた台詞回しは好きなんですけどね、なんなんだこの鬱漫画・・としんどくなるお話や、1ミリも楽しめない露悪的なお話もちょくちょくあって。
私にとって、多くは期待に答えてくれない1人なんですよね、松本次郎って。
で、そんな作者が突然なりふり構わず弾けたのがおそらく本作。
以前から女子高生というか年頃の女性を主人公にするのが好きな人だな、とは思ってたんですけど、まさか女子高生そっくりの巨大ロボに男性搭乗員が乗り込んで敵と戦う話を描くとは思わなかった。
みんな言ってるんでしょうけど、いったいなんのフェチなんだ、という。
背景には、女の子になりたい一部男子の願望を叶える意図なんかも不作為にあったのかもしれませんが、なんといっても巨大人型ロボですからね。
単純に性癖で片付けられない部分もそりゃでてくるだろ、という。
しかも巨大女子高生ロボに搭乗している間の振る舞いが、パイロットの搭乗時間の長さに比例してだんだん女性化していくという設定つきで。
乗ってるのはオッサンなのに、ロボ同士の会話は女子高生のガールズトークのようだったりしますから。
いやー、狂ってるわ。
誰がこれを喜んで読むんだ?とマジで疑問だったりしますが、あまりにぶっ飛んだプロットすぎてページをめくる手がとまらない。
なんせ登場人物たちの戦場は「預言者」と呼ばれる存在によって開拓された「異次元」で、主人公の目的は、過去、同僚を大量虐殺した女子攻兵の抹殺ですからね、どういう地獄の黙示録(1979)なんだよ、という。
とりあえず作者は異次元などという雲を掴むような舞台で、女子攻兵などという異形の存在をよくぞ破綻せずに使いまわしたことよな、と思います。
こんなの下手すりゃホラ話以上の荒唐無稽さで笑われかねないアイディアですよ。
それが不思議にどこか生々しかったりするんだからなあ。
正直、エンディングはね、なんとなく煙に巻かれたような気がしなくもないんですけど、終盤、単行本1冊分近くの分量で女子攻兵が女子高生として生きる仮想現実を演出したのには恐れ入った。
これはひょっとして「オッサンが私を動かしている」と妄想する女子高生の話なのか?とあやうく信じ込みそうになりましたからね。
ま、万人に勧められる漫画ではありません。
女子攻兵、めっちゃ面白い!と言っただけで後ろ指さされかねんな、と思ったりもしますし。
結構なエログロで、そんなことまで描かなくていいのに・・・と思うところもちょくちょくありますしね。
ただ、現時点で作者の最高傑作なのは間違いないでしょうね。
カルトでフェチってるけど、ある種の極北である、そんな一作じゃないでしょうか。
こんなの松本次郎にしか描けないのは確か。