あさりよしとお短編集
1980~87年初出 徳間書店

<収録短編>
白頭巾
それ行け宇宙パトロール
魔黒州城
木星ピケットライン
ムーンチャイルド
砂漠の魔王
宇宙刑事バスター
たたかう自衛官
アンドロイドは電気クラゲの夢を見るか
ゾンビの7人
ゾンビの用心棒
地上最大の恩返し
ためにならないプラモ製作基礎講座
正直たあいのない短編ばかりで、これがオススメ、ってのもなかったりするんですが、作者がいったいどういうものが好きで現在の作風に至ったかが、よくわかる内容ではあります。
サブカルとか、オタクとか、SFとか、さあこれから時代がぐわん、と動きますよ、ってのが伝わる感じ。
同時代を過ごした人にとってはあれこれ懐かしいかも知れません。
デビュー作が読めるのが貴重、といえば貴重。
ただまあ、なにかと仕上がってないんで。
まだ何者でもない、って感じですかね。
熱烈なファン向けですかね。
中空知防衛軍
1985年初出 徳間書店

女子高生二人組が町内規模で侵略者と巨大ロボで戦うドタバタSFコメディ。
80年代の少年サンデーに載ってそうな内容ですが、さてこれが早かったのか遅かったのか、きちんと検証したことがないのでわかりません。
とりあえず、ああガンダム大好きなんだなあ、と。
ガンダムのパロディ的側面もあります。
防衛軍がお役所仕事という発想は面白い、と思うんですがまだまだ作劇に活かしきれてない感じ。
いささか稚拙さも目立つ、といったところ。
このプロットならもっともっとおもしろくなったはずだと思うんですが・・・。
掲載誌が掲載誌なんで、わかる人にだけウケりゃいい、と考えてた部分もあったのかもしれません。
さしずめインディーズ時代の佳作、とでもいったところでしょうか。
宇宙家族カールビンソン
1985年初出 徳間書店

作者の初長編。
タイトルは言わずと知れた宇宙家族ロビンソンのもじり。
掲載紙少年キャプテンの廃刊により、未完のまま終了しているんですが、なんでこれが未完なんだ、と怒りたくなるぐらい良くできた内容で後追いの身としては本当に驚かされました。
SFコメディとしては「うる星やつら」と双璧を成して80年代の最高峰ではあるまいか、とすら思いますね。
宇宙船の事故で孤児となった地球人少女コロナを、いつか地球の人間が迎えに来る日まで、外宇宙人の旅芸人一座が親代わりとなって育てる、と言うストーリーなんですが、なによりプロットが独特だし、そのために地球っぽい村社会まで偽装してしまうという設定が何ともオリジナリティ溢れてるように感じます。
深読みしすぎなのは分かってるんですが、まるで仮想現実を扱ったSFを読んでいるかのようにゾクゾクするものがあったりするんですね。
間違いなくコメディなのに、各話のSFマインドの豊かさにも感心。
昔「第5惑星 」という優れたSF映画がありましたが、ああ、映画と逆の設定なんだ、とひとり膝を打ったりもしました。
辛い過去を抱えた最終兵器?らしきお父さんの、それを匂わせぬボケッぷりも吾妻ひでおのキャラみたいでおもしろいし、コロナにむける一途な愛情も笑えて、胸をうつ。
いや、傑作でしょう。
マニアなSFネタの数々にも年輩のファンはにやりとさせられるはず。
私はこの作品を読んであさりよしとおの大ファンになりましたね。
ちなみに本作は他にもプチアップルパイに連載されたバージョン、アフタヌーンに連載されたバージョンがあり、微妙に内容は違えど、大枠でストーリー、設定等は変わらず。
ちなみにすべて未完。
どうも作者にとって本作は終わらせることの出来ない一作のようです。
コロナが地球に戻れる日を最終回として読みたかったですが、多分もう描かれることはないんでしょうね。
やきもきするものが残るかもしれませんが、それでも未読の人は是非一度読んで欲しい、と思う作品です。
ワッハマン
1991年初出 講談社

黄金バットの造形をそのままに、不老不死な無敵の超人の主人公とした脱力系SFコメディ。
いかにもあさりよしとおらしいだらだらとした日常に非現実な展開が楽しいです。
ワッハマンが一言もセリフを発することなくひたすらボケたおす様子は宇宙家族カールビンソンのお父さんのようですが、それがマンネリに映らず、これこれ待ってました、と感じられるのはそれが作者の持ち味にまで昇華してるからでしょうね。
終盤、コメディとは思えないシリアスな展開が待ち受けていて、いったいどこへ行こうというのかこの物語は、と手に汗握ったんですが、 残念ながら広げた風呂敷ほど衝撃的なエンディングには達せず。
まあ、伏線らしい伏線も作品世界の背景も特に考慮されてなかったように思うので、最後の強引な展開だけでまるで別物に、というのはやっぱり難しいでしょうね。
ただ、だからダメだ、と言い切れない愛らしさみたいなものはどこかにあって、そこに感化された人にとっては記憶に残るシリーズだと思います。
大傑作、というわけじゃないですが、私は好きですね。
ただいま寄生中
1992年初出 白泉社

91年頃の有害コミック規制騒動に反発して描かれたマンガで、少年誌のエロの限界に作者は挑戦するつもりだったらしいんですが、誰にもそうと気づいてもらえなかった、と後述されてる笑える1冊。
まあエロく描こうと思えばいくらでもエロくなったと思うんですが、そうしなかったのはやはり作者の美意識でしょうね。
ここで安直にエロい描写をいれちゃったら結局は規制する側と同じ土俵で小競り合いになってしまうでしょうし。
あなた達が眉をひそめる「有害」のお題目はこういう自由さも奪ってしまうものなんですよ、と暗に示唆しているあたりが私はクレバーだと思いましたね。
とりあえずアイディアが強烈です。
本作、進化した寄生虫同士の闘いに巻き込まれた女子高生が、否応なしに肛門から出入りする寄生虫でできた強化スーツをまとって敵と戦わされる羽目になる、というストーリーの変身ヒーローものでして。
安物のアダルトビデオでもこんなのないわと思えるナンセンスさで、あたしゃ一週まわって逆に感心しましたね、ほんと。
極北のヒロイックファンタジーといっても過言じゃない。
どうも不人気だったらしく、話が広がる前に終わってしまっているのが残念なんですが、まあ、少年誌の限界を超えてエロい、といえばエロいのかもしれません。
寄生虫の作画が生理的に気持ち悪い、ってのがネックかとは思いますが、私はこのばかばかしさ、結構好きです。
普通は思いついても形にしないと思うので、形にした勇気は褒めてあげたい、と思う。
ある意味カルトの領域か、とも思うんですが、あさりよしとおだからこそできた稀有な名(迷?)作との評価もやぶさかではありません。
金田はじめの事件簿
1999年初出 白泉社

ウルトラジャンプに連載された少年探偵ものならぬ、少女探偵もの。
タイトルから想像がつくかとは思うんですが、往年の探偵小説のパロディであり、ついでにコメディです。
着眼点は悪くないと思います。
実際ばかばかしくて結構笑いましたし。
各話の元ネタになっているのは何なのか、探ってみるのも楽しいかも。
ただですね、脇役のキャラが立ちすぎていて、主人公の少女探偵の影がさっぱり薄くなってしまってる、ってのがありまして。
少女探偵という特異性あっての面白さだったと思うんです。
ま、そのあたりのさじ加減は難しい部分かもしれないですけど。
読み応えのあるミステリにもできたと思うんですが、なんだか方向性の定まらぬまま悪ふざけで萎んでしまった感じですね。
なにかと惜しい、と思います。
もっと面白くてもいいはずなんですけどね。
同じ設定で再チャレンジして欲しい、と願う次第。
もう少し連載が続いていたら違ったかも、という気はしますね。
細腕三畳紀
2001年初出 講談社

もちろんタイトルは細腕繁盛記のもじり。
この手の言葉遊びが本当に好きな人である、あさりよしとおって。
何気ない日常に突然三葉虫を放り込んだらどうなるか?をシュミレートしたコメディタッチの連作なんですが、このマンガの内容を言葉で説明するのは非常に困難です。
よくわかってない幼女に電子レンジでチンされちゃったり、料理人対決の具材になってたり、巨大化してたり、怪人化してたり。
シュールでばかばかしい、で片付けるのが一番楽でいいかも。
そもそも三葉虫を題材に連作しよう、という発想自体がふざけてるわけで。
そんなの真剣に対峙しちゃいけない、と思いつつ、よくまあこれだけネタが続いたものだ、と感心したりも。
でもこういう作品って、なんか好きだ私は。
わけのわからなさがクセになる。
突拍子もなさ過ぎて逆に楽しい、ってのもあると思うんです。
ファンのみならず、こういうのが好きな人は必ず一定数居ると思うんで、気になった人は是非ご一読を。
なんか笑ってしまいますよ、これ。
るくるく
2003年初出 講談社

ろくでなしの父親を亡くし、天涯孤独の身となった主人公の中学生、六文の元に、なぜか悪魔がやってきて奇妙な同居生活が始まる、というストーリーのSFコメディ。
やってることは藤子F先生お得意のパターン「家庭に異物を放り込んでドタバタ」そのものなんですが、肝心の異物が地獄からの来訪者でしかも親代わりでもある、と言うのが独特なブラックさで目新しいように私は思いました。
地獄の軍団を手なずけているのがなぜか年端もゆかぬ少女るく、というのもおもしろい。
どうもるくは強大な力を持つ地獄の大物みたいなんですが、現世においてはカルチャーギャップに戸惑うかわいらしいお嬢さんでしかなく、その落差の演出の巧みさがこのシリーズの一番の魅力でしょうね。
るくのお茶目で暴力的な振る舞いを見てるだけで軽く10巻分楽しめてしまいます。
なぜるくが六文の世話を焼こうとするのか、その謎が明かされる終盤の展開は、世界の存在すらも疑いかねないアルマゲドンなシリアスさなんですが、ちょっと抽象的過ぎる、と思えるきらいもあり。
結局どういうことだったんだ、とはっきり説明できる読者はほとんど居ないのでは、と思ったりも。
やりたかったことはわからなくもないんですが、仰天のオチにこだわってハードルを高くしすぎたのでは、と私は感じました。
そういう意味ではすっきりしない部分もどこか残るんですが、そこに至るまでの各話の愉快さに捨てがたいものもあって、私にとっては手放せない1冊ではありますね。
大傑作というわけではないですが、作者のコメディが好きな人にとっては必携ではないでしょうか。
荒野の蒸気娘
2006年初出 ワニブックス

フランクリードシリーズに「荒野の蒸気男」ってのがあるらしいんですが、この作品がそのパロディなのかオマージュなのか未読なもので皆目見当がつかず。
単にタイトルをもじってるだけかもしれません。
少女の心を持ったスチームパンクな高機能ロボットアリスと、そのロボットに慕われるお兄ちゃん(他人)の珍道中をコミカルに描いたSFコメディなんですが、全4巻という短さながらこれが意外に隠れた秀作。
一時期盛りあがってた妹萌えをあざ笑うかのような皮肉満開な設定と展開に、あたしゃ序盤から大爆笑しました。
鉄人28号みたいな外観のロボットが少女のように振る舞う、と言うだけで、すでにもうおかしいんですが、やっぱりギャップのつけかたがうまいんですよね。
まさに漫画というメディアならではのトリッキーさ。
笑いが地雷のようにまきちらかされてます。
特に魔法少女になる回なんて抱腹絶倒。
アリス自体に秘密があり、シリアスなエンディングを予感させる謎も物語は孕んでいるんですが、残念ながらそちらはいつの間にかうやむやに。
特にラストは失敗だったように思います。
このラストが暗示するのは、異形に情けをかけるとさらなる悪夢につきまとわれる事になる、というある種のホラーのような警告でしかないと思いますし。
ちょっとそぐわない感じです。
でもだからといって読まずに捨て置くにはあまりにもったいない。
作者らしいプロットの秀逸さとすべり知らずのギャグが光る一作。
アステロイド・マイナーズ
2010年初出 徳間書店

小惑星開発に力を注ぐ未来の地球人の姿を描いた近未来SF。
1話完結形式。
宇宙開発における細かなウンチクネタも数々あり、これはおそらく「まんがサイエンス」の血脈を継ぐものなのだろうと思います。
この手の、物語の本筋とは別に科学的解説をあれこれほどこしたマンガって、今はほとんど見かけなくなりましたね。
なにやら妙にレトロというか、かえって新しいというか。
そこにぐっと引き寄せられるものはもちろんあるんですが、やはり大事なのは肝心の物語だろうと。
しかしそこがですね、残念ながら幾分地味。
いや間違いなくSFファンは好きだろうと思うし、私も好きなんですが、あさりよしとおが描くのなら、もうちょっと笑いがあっても良いのでは、と思うわけです。
なにやら妙に生真面目なんですね。
その生真面目さが読者を選ぶような気もします。
それでも巻数を重ねれば徐々に人気も出てくるのでは、と当初は思っていたのですが、あえなく2巻で終了。
ファンのための作品になってしまった印象は否めない、といったところでしょうか。
本当の意味でのサイエンス・フィクションって、もうダメなのかなあ、なんてふと思ったりしましたね。
こういう作品って、今は殆ど見かけないから貴重だと思うんですが、オムニバス形式だったのが仇になったのかもしれません。
蒼の六郷
2013年初出 白泉社

タイトルは言わずと知れた小沢サトル「青の6号」のもじり。
本当にあさりよしとおと言う人はこの手の言葉遊びが好きな人である。
ま、なんせ青の6号ですんで当然内容は深海もので潜水艦も大活躍、といった按配なんですが、作者らしいのは主役が女子高生と小学生の二人組みで、舞台は東京湾、といった点。
猫型エイリアンなんかも登場してSF風味もたっぷり、ファンなら思わずにんまり、といったところでしょう。
腐女子なショタ趣味なんぞも隠し味程度に忍ばせてあって、これは雑誌の性格上、女性読者を意識してのことなんでしょうかね。
恋愛をテーマとする上でショタ趣味を持ってくる、ってのがいかにもあさりよしとおらしい変化球で思わず笑ってしまいますが。
終盤、二人の現実における境遇にちらっと言及する回なんかは、予想外の展開に物語が転びそうな期待感があったんですが、結果的にあんまり盛り上がらないまましぼんでしまったのが残念といえば残念でしょうか。
遠く宇宙にまでストーリーが飛躍しそうな勢いはあったんですけどね。
まあその、一応ラスト、宇宙にまで手が届いたことは届いたんですが、このエンディングにカタルシスを得た、って人はやっぱりあんまりいないのでは、と思ったりもします。
ハッタリをひっくり返すシリアスさみたいなのがもう少しあれば化けたかもしれません。
楽しい作品なんですけどね。
今、こういうSFコメディって少ないと思うんで、そこはやはり評価したい、とファンとしては贔屓する次第。
生殖の碑
2017年初出 白泉社

見ず知らずの女の子から、突然生殖しないか?と持ちかけられ、慌てふためく童貞男子高校生を描いたSFコメディ。
で、何がSFなのか?というと、やたら積極的な女の子が、どうも人間じゃないみたい・・・と設定されてること。
作画上ではかわいいなりに蜘蛛人間のような見かけです。
頭の中がエロいことでいっぱいな男子高校生としては、ぜひとも据え膳にあずかりたいところであるが、人あらざる何かと事に及ぶことの恐ろしさもあって、ひたすら悩みあぐねるわけですな。
そこに自分が狙われてる!と勘違いする図書委員の女子や、なにやら人外の気配がする、と首を突っ込んでくる寺の息子とかが絡んできて、ストーリーはドタバタ喜劇の様相に、というパターン。
作者お得意の手口ですね。
あらすじだけ読んでるとエロコメみたいですが、そこはあさりよしとおですんで、露骨な扇情的描写はありません。
エロは状況設定のおかしさで笑わせるためのスパイスにすぎません。
なんだろ、蜘蛛だけに最後はオスが喰われてしまうのかな?しかし、それはそれでかなりブラックだなあ、と思ったりしてたんですが、どうやらこの物語はハル・クレメントの20億の針がヒントになってるみたいで。
最終話を読んだあとで、なんだよ、きっちりSFじゃねえかよ、とあたしゃ笑ってしまった。
らしい、ですね。
本当にあさりよしとおはいい意味で変わらない。
ただ、オチが弱いなあ、と感じる部分もあって。
ちょっと読者の想像力に任せ過ぎな気も。
ファンは満足かもしれませんが、このままニッチなポジションに居座り続けるのも先細りなのでは・・・と思わなくもありません。
ぱっとしない、と言ってしまえばそれまでですが、こういう漫画を描く人が今は本当に居ないんで、希少性を考えるなら、どう評価していいやら悩むところ。
そろそろ長編が読みたい、とも思うんですが、色々難しいんでしょうかねえ。
戦国機甲伝クニトリ(2016~)もすぐに終わっちゃったしなあ・・・。
*画像をクリックすると電子書籍の販売ページへと飛びます。0円で読めるものもいくつかあります。