サーチアンドデストロイ

2018年初出 手塚治虫/カネコアツシ
マイクロマガジンTCコミックス 全3巻

手塚治虫生誕90周年を記念して全18冊が刊行された漫画雑誌、テヅコミに創刊号から連載された作品。

テヅコミに掲載されている作品はすべてが手塚治虫作品のカバーなわけですが、本作は「どろろ(1967~)」がネタ元。

さて、どろろと言えば、これまで数多の漫画家が公式、非公式にリメイクを手がけた作品だったりするわけですが、断言しよう、どろろのリメイクとしては本作が最高傑作

オカルト時代劇だったどろろを、主人公の性別を変えてサイバーパンクにする、という発想からしてあたしゃ震えましたね。

この漫画をおかしなRPGもどきの世界観で色付け(過去、やった連中が何人か居る)しなかったセンスからして、カネコアツシはやっぱり違う、と思いました。

私が唸らされたのは、物語世界に手塚治虫へ対するリスペクトがきちんと存在してること。

今となっては古臭いテーマとも言えるんですけど、サーチアンドデストロイの筋立てがアンドロイドと人間の対立を骨子としてて。

これって鉄腕アトムを始めとする手塚作品で幾度も問われた題材だったりするわけです。

で、そこにこだわってやる、ってことは縛りが存在することに他ならなくて。

決して今うけそうな舞台設定とは言えない世界観で、なおかつ自分のカラーを見失わず、オリジナルに劣らぬ完成度を追求するとか、もうほんと情熱と高い力量がないと出来ない仕事だと思うんですけど、それを作者は見事クリア。

獣じみた女がたった1人で自分の身体を取り戻していく物語に「父殺し」を織り込むという離れ技を披露したほどで。

いやもう辣腕過ぎるだろう、と。

若干、進行が駆け足な印象は受けたんですが、エンディングまでページをめくる手が止まりませんでしたね。

で、最大の見せ場である肝心の最終話なんですけど(オリジナルは未完なので百鬼丸の行く末は描かれてない)正直に言おう、ちょっと微妙だったりはした。

どろろの物語って、作者もあとがきで言及してるんですが、失われたアイデンティティーを取り戻すお話だったりもするわけです。

脳すらも奪われていた、としたのには「すごいところにコマを進めようとしてる」と思ったんですが、その後がねえ、ちょっとはっきりしなかった。

結局、ほぼ全てを取り戻した主人公はなにを得、なにを知覚したのか、もう少し掘り下げてほしかったところ。

とはいえ、こんなリメイク漫画、他の誰にも描けないことは間違いないです。

どろろの役回りに背景を設けたアイディアを含め、物語の数十年後を読んでみたい、という渇望に襲われましたね。

どろろを知ってる人にはぜひ読んでほしい一作。

手塚先生が生きてたら、絶対に嫉妬したであろう一作だと思います。

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