勇者ヴォグ・ランバ

2012年初出 庄司創
講談社アフタヌーンKC 全2巻

全面核戦争を回避するために「ペインフリー」と呼ばれる新技術を全人類に施術しようとする世界で、「発現力」と呼ばれる物理を超えた計算式を武器に、体制へ挑もうとするたった3人の反政府組織を描いたSFポリティカルフィクション。

・・・はい、なんのことかさっぱりわかんないっすね、うん、私も自分で書いててこの説明であってるのか自信ない。

かように難解です、この物語。

全盛期の佐藤史生並に想像力が独走状態で、かつての士郎正宗並に説明する気がない。

結構なスピードで物語は展開していくんですけど、ペインフリーが結局どういうものなのか腑に落ちないし(なんとなくはわかる)、発現力って結局はなにがどう作用するのか理解できないんで(なんとなくはわかる)、ああ、そういうものなの?と、曖昧模糊なまま、気がつきゃ主人公が這脳と呼ばれるクローンみたいなのに生まれ変わってる状態だったりする。

いやこれ連載時に途中脱落する読者が相当数いたのでは、と思いますね。

ちょっと油断すると、もう登場人物たちが何を言ってるのか理解できなくなるんですよ。

読み進めるには集中力と想像力を両輪とした、それなりの知力が必要なのは間違いない。

しかし、よくぞまあ、ここまでニッチなSF大作が商業誌連載を続けられたことよな、と思いますね。

私はSF好きなんで、なんとか探ろう考えようとしますが、こんな眉村卓が伊藤計劃と正面衝突したようなアンチユートピアものとか、相当な好きものじゃないとまず食いつかない。

なんせ劇中でペインフリーに頼らず全面核戦争をなくすためにはどうすればよいか、議論を始めたりする始末ですから。

このネームを通した編集者も相当だな、と。

ただまあ、振り落とされずに最後まで読み進めることができれば、それなりにエンディングは盛り上がります。

まさか登場人物の中で唯一の異形であるキーハが、ああいう形で活躍するとは思わなかった。

ラストシーンも鮮やか。

新しい世界への再生を象徴するような一コマがやけに美しくてね。

もう少し違う形のアプローチもきっとあったはずだと思うんですが、丁寧にロジックを積み上げていく作劇を私は評価したいですね。

漫画でここまでやりきったことが快挙と言っていいかも。

商業誌で打ち切りくらわずに完結を見た最後のハードSFかもしれません。

ちなみに唯一残念だったのは、あまり画力が高くなかったこと。

平面的で線が細くて、迫力に欠けたのは否めないかと。

これで画力が高かったら伝説の一作になってたかもしれませんね。

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