2022年初版 武田登竜門
エンターブレインビームコミックス

<収録短編>
その時がきたら
10分後に警察は来た
初夜はつつがなく
よかったね
楽園
悪くはねえけど
大好きな妻だった
発表年が記載されてないんでいつ頃描かれたものなのかわからないんですが、絵柄から推測するにおそらくBADDUCKS(2018~)発表後だろうと思われます。
なんかもう、やたらと上手い、ってのが読後の感想ですかね。
個人的にはBADDUCKSがいささか消化不良気味だったんで、この短編集もあんまり期待してなかったんですが、えっ、実は短編のほうが得意なの?と問いただしたくなるほど秀作揃いでびっくり。
冒頭を飾る「その時がきたら」からして強烈なインパクトで。
往年の大御所少女漫画家が描きそうな幼い王女の物語なんですが、絶望にも希望にも寄りかからずにお話を結んだ手際が鮮やかきわまりなく。
こんな形で少女の内面を映し出すのか、と感嘆。
ラストシーンの見事さときたらまるで映画のワンシーンのよう。
「10分後に警察は来た」も、何もない毎日に倦む女と、下着ドロの10分間の会話がまるで戯曲のようで。
シチュエーションと気持ちの変化の演出がなんとも可笑しい。
「楽園」はまるで藤子不二雄Fが短編で発表してそうな一編。
なんとなく予想はつくんだけど、ミスリードが上手で最後まで楽しめます。
「大好きな妻だった」なんて、油断したら泣いてしまうからね、これ。
妻の豊かな表情を描くのがうますぎて、完全に気持ちを持っていかれる。
「初夜はつつがなく」も12ページほどの短さながら、不具であることを哀れみで捉えぬ目線のフラットさが見事。
総じて、充実の短編集と言えるでしょうね。
えー怒られるかもしれませんが、私はBADDUCKSよりこっちのほうが好きですね。
というか、この作品群がBADDUCKSを描ききった結果の産物なのだとしたら、今後凄いことになると思う武田登竜門。
ともあれ、おすすめの一冊ですね。