2011年初出 カネコアツシ
エンターブレインビームコミックス 全3巻

1960年代の日本を舞台に、殺人事件の犯人である女性を追う若き刑事を描いたクライム・サスペンス。
んでまあ、これ、SOIL(2003~)のページでも同じようなこと書いてますけど、どっちかと言うともう幻想劇(妄想劇?)というかSFです。
なんかしらんがカネコアツシは刑事がわけのわからん事件を追う、というプロットが好きみたいで。
SOILと違うのは、コメディ色を排除したシリアスな内容であることぐらいか。
私の考えるこの作品の難点は、相変わらず現実的な帰結が難しいだろうと思われる風呂敷の広げ方が目立つのと、全体的にとにかく暗い、ってこと。
主人公佐田の妄想だか現実だか判別つかないシークエンスがけっこうあるんですよね。
ちなみに私は2巻中盤ぐらいですべてを理解しようとするのを諦めました。
ああ、これはどう考えても納得の行く謎解きは不可能だわ、と思った。
知ってる人はわかってくれると思うんですが、クローネンバーグの裸のランチ(1991)やギリアムのラスベガスをやっつけろ(1998)みたいなのを破綻なく誰にでもわかるように徹底解説するのが不可能なように、この手の作劇を丁寧にひとつずつ拾い上げて1枚の絵を完成させるとか、乱暴な物言いですけど、時間の無駄でしかないな、と思うわけです。
実際、物語自体も「なんとなくわかるでしょ、そのあたり察して」みたいな感じで締めくくられてますしね。
なにより主人公佐田にまるで共感できないのがきつくて。
なんか変なコンプレックス抱えた正義感だけは一人前のド新人が、頭痛いとか記憶が飛んでるとかぶつぶつ言いながら延々一人で空回りしてるんですよ、それの何が面白いのか?って。
ただ、カネコアツシの漫画表現に関しては、さらなる進化を遂げてるな、とは思いました。
なにもかもがうまいな、と感じたことは事実。
サブキャラの設計やデザイン性も独特で目を奪われるものがありましたね。
特に、てっぺんハゲの親父の集団が、帯電ステッキみたいなのを持って集団で追っかけてくるシーンとか、どういう発想で思いつくんだ、と変に感心させられたりしました。
スタイリッシュなのにカルトでフリーキーなんですよね。
だから投げ出さずに最後まで読めてしまう、というのはある。
うーん、カネコアツシは好きなんだけどなあ、今回もなにかがくすぶってる感じがしましたねえ。
どっちかというと熱心なファン向きかな。