2017年初出 阿部洋一
角川書店ドラゴンコミックスエイジ 全3巻

「私以外、みんな居なくなってしまえばいい」と願った少女の『思いが何故か具現化した世界』で生きる、男子高校生と後輩女子の物語。
いや、阿部洋一らしい、といえば阿部洋一らしくはあるんですけど、今回はね、最初からかなり飛ばしてきたな、と思いましたね。
これ、穿った見方をするなら、後輩女子の夢世界の物語、とも取れるわけです。
もちろん、現実世界のほうが改変されてしまった、という設定なんですけど、主人公女子の主観が世界のすべてを成り立たせているという意味でなんでもありなわけですよ。
ルールなんてあってなきようなもの。
彼女が願うなら先輩1人が蘇ることも可能だし、米だけ喰ってりゃ生きていけるし、プールも一瞬で適温な風呂になる。
世界に二人きり、という甘酸っぱい関係性と、薄暗くおどろおどろしい世界の対比が、一部ファンをくすぐりそうではありますが、これは相当にお話を展開させていくのが難しい、と私は思いましたね。
だってなにをやったって自家薬籠中の物みたいな風に映る可能性があるわけだから。
実際、2巻、3巻と読み進めながらも半分はどこか空々しい印象を受けた、ってのが正直なところだったりする。
がんばってる、とは思ったんですよ、漫画のネームが間接的に世界へ影響を及ぼす筋立て(メタではない)とかね、考えたなあ、と思った部分もなかったわけじゃない。
ただやっぱりね、どうしたって盛り上がりに欠けたように思うんですね。
なにを身内(たった二人)で延々がちゃがちゃやってんの?みたいな。
世界そのものの自由度は恐ろしく高いのに、肝心の登場人物たちがひたすら内を向いてるように思えて。
漫画家が漫画家を主要キャラにする、というネタに困った中堅推理小説家がやりそうなプロットも、冷めさせる原因の一端だったような気がします。
ま、この内容を若い二人が現実と手を取り合うためのボーイミーツガールなファンタジーにまとめあげた手腕には、素直に感心しましたけどね。
こんなこと阿部洋一にしかできないのは間違いない。
うーん、どう評価すべきか悩みますね。
阿部洋一の凄さは堪能できるんだけど、もう少し違う発想、違う語り口でお話を着地させてほしかった、ってなところでしょうか。
とりあえずは途中で打ち切られなかっただけでも良し、とすべきなのかも。

