1972年初出 小池一夫/ケン月影
スタジオシップ劇画キングシリーズ 全11巻

尾張藩鏡番、唯一の生き残りである刑波之進の、根来黒葵との戦いを描いた時代劇。
デティールは違いますが「尾張藩という巨大な権力にたった1人で立ち向かう武士」という構図がどこか子連れ狼を思い起こさせたりもするんですが、小池時代劇お得意のパターン、と言われれば、そうかも、と思ったり。
ただし、ことケレン味に関してはこちらのほうがはるかに上かもしれません。
なんせ葬流者と書いてソールジャー、と読ませるってんですから。
いや、我々がそう読む分には良いんですよ、劇中で刑波之進がソールジャー、って名乗ってるのが無茶しすぎ、というかね。
だって英語じゃねえかよ、って。
江戸時代に俺はソールジャー、って吹聴してる武士がいたら、ああ、あの人はちょっと頭がな、そっとしておいてやって、と哀れみの目で見られること必定。
バテレンの宣教師ぐらいしか意味がわからん、って話だ。
しかも葬流者、全身に死んだ仲間の名を入れ墨してて、人間墓標を自称していたりもする。
もうね、情報が多すぎて渋滞しちゃってるから、刑波之進。
だからなんなんだ、あんたは、どこから理解していけばいいんだ、とこっちが聞きたくなるほど。
キャラクターを立てることに心血を注ぐ小池一夫の手口は理解してるつもりですが、それにしたって大げさに飾りすぎ。
序盤でつまずいてしまう読者続出だったのでは?という気がしなくもないんですが、これがね、それを乗り越えて読み進めていくと予想外の熱いドラマが待ち受けていて仰天だったりする。
特に終盤、刑波之進と尾張藩主の主従を超えたストーリーは、一藩士として生きる主人公の矜持、生き様が克明に描かれていて涙腺直撃。
最終話なんてまるで救いがなくて絶望的なんだけど、でもこれこそが武士道に殉ずる、ということだよなあ、納得できてしまうのだから大したもの。
小池時代劇の代表作のひとつ、と言って良い長編でしょうね。
ケン月影の作画が時々デッサン狂ってるのが玉に瑕ですが、最初に受ける印象をひっくり返す傑作、と言っていいと思います。