2021年初出 八十八良
エンターブレイン青騎士コミックス 全2巻

人間の女と契り、子を成した遠野の大妖怪のムジナの、慣れぬ子育てを描いたホームコメディ。
タイトルは思い出せないけど、どこかで読んだことのあるようなプロットだな、と最初は思ったんですが、これが既視感をものともせず面白い。
作者が上手だったのは、ムジナを室町生まれの妖怪ゆえ現代社会のテクノロジーや道具に疎く、今まで人との間に子を作ったこともない新米パパ、と設定したことでしょうね。
なんせもともとは人間を喰ってた(坊主との約定で今は喰えない)忌まわしい妖かしですから、赤子の育て方なんざ1ミリもわからんわけですよ。
赤子がなんかするたびに、慌てて育児書を読んだり、嫁の指示を思い出して右往左往する姿がなんとも可笑しくて。
失敗するたび激昂して「おのれ人間ども!」と業火を撒き散らすんですが、次の瞬間には「いかん、のり子(嫁)に怒られる」と、あれこれ取り繕い始めたりする。
怪物でしかない存在の、可愛らしい一面を巧みに引き出してる、というか。
また、ムジナを現代社会においては一銭たりとも稼ぐ事ができない社会不適合者、としたのもキャラの掘り下げ方がうまい、と思った。
大妖怪なのに、自宅で育児パパするしか選択肢がないんですね。
総じてギャップの設け方が秀逸。
かと思えば、2巻終盤ではムジナが本来のフィールドで、呪い屋をねじ伏せるバトルな回があったりする。
これが呪い屋の背景や出自もしっかり描かれて、予想外に本格的だったり。
さんざん笑わせておきながら、オカルトアクションな醍醐味まであるという、硬軟自在な手管は、さすが八十八良の一言。
いやもうほんとにね、なんでこのシリーズが2巻で終わってしまったのか、マジで理解に苦しみますね。
人気が出なかったのか?この内容で?
青騎士、いったいどういう層が読んでんだ?大丈夫か(大きなお世話だ)?
不死の猟犬(2013~)に比べりゃ肩の力の抜けた物語だから「期待してたのと違った」と思った人がたくさんいたのかもしれませんが、だとしても、もったいない。
何処か別の媒体で続きを描いてくれんものか。
2巻が出た時は2024年度の大収穫!と思ったんだがなあ、うーん、私だけ?