2023年初出 森恒二
白泉社ヤングアニマルコミックス 1~2巻(以降続巻)

他者と「夢」を共有する能力を持つ主人公カグラの、自主的な悪人狩りを描いたダークヒーローもの。
私は森恒二の作品ってホーリーランド(2000~)しか読んだことがないんで、どういうことができる漫画家なのか、薄っすらとしかわからないんですが、この作品を読んだ限りでは「相当に手練れ」なように感じましたね。
さすがは数々のヒット作をモノにしているだけはあるな、と。
普通ね、物語の題材選びで「夢世界での出来事」とか、多くの描き手は躊躇すると思うんですよ。
創作における夢オチが禁じ手であるのと近しい意味で、夢の中でのストーリー展開とか、制約がなさすぎて、何をするにしても雲を掴むような話だったりしますから。
「なんでもあり」ほど難しいことはなくて。
どうしたってイマジネーションに寄りかかるしかなくなる。
どうせ夢なんでしょ、ってポジショニングからは緊張感とか、まず生まれないですしね。
ところが作者は、そんな何でもありの世界に細かなルール、縛りをひとつづつ丁寧に設けることによって、まず夢世界の共有とはどういうことなのか?を懇切丁寧に説いてみせた。
夢とはいえ出来ることと出来ないことがあって、むしろ不自由に感じることのほうが多い、とした夢世界の作り込みは、我々が想像する以上の臨場感でもって夢を明晰化したように思うんですね。
さらに作者がすごかったのは、そんな誰も見たことがない夢世界で主人公に、法の及ばぬ悪を狩る機会を与えたこと。
これ、ある意味神にも等しい能力だったりするわけです。
眠らない人間はこの世に居ないわけですから。
今のところ誰であろうと夢に潜れるわけではないですし、近接戦闘で悪人に痛みで思い知らせる手段しかないみたいなんで不自由さはありますが、それでも主人公にマークされちゃったら最後、毎晩襲われてしまうわけですよ、夢の中で。
どんなサイコパスや殺人鬼だって音を上げる、って話だ。
で、注目すべきは、正義の行使を判断するのが主人公カグラの主観でしかないこと。
これってものすごく怖いことだと思うんですね、ちょっとした勘違いで無実な人間を追い込んでしまう可能性だってあるわけですから。
バットマンの中の人、ブルース・ウェインだってここまで独善的に行動してないぞ、って。
つまるところ、本作は正義とはなにかを問うているように私は思うんです。
公に裁けぬ人間を、個人が裁くことは本当に正義と呼べるのか?
正義を行使する己に酔っているだけではないのか?むしろファシストと呼んでもいいのではないか?
いやー、先の展開が非常に気になる作品でしたね。
また、森恒二はぶっ壊れた連中をリアルに描くがうまくてねえ。
そりゃ、こんなやつら追い込まれたって仕方ないわ、と読者に思わせるのが実に上手。
それこそがミスリードな気もしますけどね。
どう完結させるのか、注目のシリーズだと思います。
当分は楽しめそうな予感。