2020年初出 白井弓子
双葉社webアクションコミックス

第37回日本SF大賞を受賞した大作WOMBS(2009~)の前日譚を描いたスピンオフ。
WOMBS本編で強烈な存在感をしめしていたアルメア軍曹の若かりし頃が描かれてます。
もともとはWOMBSに挿入される予定のエピソードだったらしいんですが、掲載誌IKKI廃刊により、完結が急がれたため、収録を断念したんだとか。
WOMBSを通読した人にとっては興味深い内容になってます。
キャラのイメージを覆すほどのものではないんですけど、いかなる窮地においても最善の判断を下す百戦錬磨な豪傑、みたいな感じで描かれてたアルメアが、迷い、悩み、逡巡する姿はやはり新鮮で。
とはいえのちに頭角をあらわすだけはあって、若輩ながらもつまんねえ草食系には全然負けてなかったりはするんですけどね。
ストーリーそのものは、転送隊誕生以前のカオスで手探りな日々が綴られてるんで、結構悲惨で痛々しい感じです。
ぶっちゃけしんどい、と思う人もいるかも知れない。
まあでも、この容赦なしな生々しさ、シリアスさこそがWOMBS、といえばそうだと思いますし。
従来のファンの期待は裏切らない、と思いますね。
ただ、単独でこの作品に接した場合、何がどうなってるのかよくわからない、と感じる人は意外に多いかもしれません。
SFならではの想像力を試されるという意味では、本編よりもハードルが高いかもしれない。
それが良い、悪いは別にして、新しい読者を取り込む、という部分においてはやや不親切だったかも。
最近の若い読者はSFに見向きもしないですからね、ファンタジーは大好きだけど。
そう考えるとwebとはいえ、双葉社はよくぞまあ連載を引き受けたことよな、って。
ちゃんと終わってますしね。
ま、欲を言うなら、私はこの物語を本編で読みたかった、というのはあるんですよ。
鋼鉄の女、アルメア軍曹のキャラクター像、しいては人間像が少し違って見えたと思うんですね、もし本編にこのエピソードが挟まれていたら。
さらに物語は肉厚になっただろうな、と思われるだけにもったいない。
独立させちゃうとね、どうしても当時の熱が逃げちゃいますから。
こうして別の機会ながらも、作品として発表されていること自体に感謝せねばならんのかもしれないですけどね。
これこそがSF、と自信を持って言える希少な一作なのは間違いありません。