日本 2017
監督、脚本 堀貴秀

1人で作り上げた執念は認めるが・・・
遠い未来、環境破壊が進んで生殖能力を失った人類が、再生の道を模索して地下世界の探索に向かう冒険SF。
原案、絵コンテ、脚本、編集、撮影、演出、照明、アニメーター、デザイン、人形、セット、衣装、映像効果のすべてを堀貴秀が1人で担当し、総ショット数約14万コマ、およそ7年の歳月をかけたストップモーションアニメ、ということで話題になった一作ですが、とりあえずね、その執念にはほとほと感服しますね、みんな言ってるんだろうけど。
7年だよ?
7年間も1人でコツコツアニメ作ってなんかいられないよ、普通の人は。
よほどの高い志と鋼鉄の克己心があったんでしょうけど、誰かに少しぐらい手伝ってもらいなさいよ、と思わなくもない、いやほんと口さがなくてごめんなさい。
というのもね、7年の時間が、大きく時代を変えてしまうのには充分な長さだから。
あらゆる創作物には必ず時代性ってのがついて回るんであって。
今、このタイミングで発表できたことが奇跡、みたいなことってあるんですよ、現実に。
またその逆もしかりで。
せっかく頑張って作ったけど、今発表するのは難しい、みたいなことだって余裕である。
商業ベースで発表するなら、社会情勢や流行り廃りに左右されるのは宿命みたいなもので。
制作に7年もかかってちゃ、タイミングを図るどころか、もうなにがなんでも発表するしかない、ってなると思うんですよね。
それが作品の評価を歪めてしまうことは充分に考えられるわけで。
7年もかけて1人で、を売りにしてちゃいかんと思うんです、手厳しいことを言うようですけどね。
で、しかもこの作品、7年かかってるのに完結してないんですよね。
3部作の内の一作目が本作だとか。
いやもうね、最後まで見て呆気にとられましたよ。
これから、ってところでエンドロール、全然話終わっとらんがな!って。
えーと、続編が発表になるまでまた7年?
その間に、もっと高品質で業界の常識をひっくりかえすストップモーションアニメが発表されちゃうかもよ?
すでに特殊効果の生ける伝説、フィル・ティペットが似たような題材、テーマでMADGOD(2021)というカルトなストップモーションアニメを発表して話題を独占しましたしね、まごまごしてるうちにどんどん風化していくぞ、って。
2018年には「オオカミの家」みたいな強烈な1作も発表されたことですし。
いつまでみんなが振り向いてくれるのか、なんの保証もないわけですよ。
全部1人でやりたいのもよくわかる、自分に嘘つかずにじっくり時間をかけて作りたいのもよくわかる、でもね、それは自主制作で採算度外視であってこそ通用する手法であってね。
さらに言うなら、悲しいかな、肝心の作品内容がね、決して目新しくも斬新でもなくてね、途方もない努力に見合うだけの評価が得られるほどでは・・・と思えるのが残念としか言いようがなくて。
悪くはないです、決して悪くはないが、地下世界に蠢く人工生命体の世界に、生身の人間がサイボーグ化して潜入するというプロット自体がね、80~90年代みたい、というかね。
なんか昔のSFなんですよね、サイバーパンクな感じの。
もう、わかっちゃうんですよ、ああ、BLAME!とか地下ダンジョンに特化したRPGとか好きなんだろうなあ、って。
なんだかキャラの造形が変に可愛かったりするのが(大半はグロいけど)キャッチーだな、とは思いますが、それもねえ、ああジブリだなこれは、と思ったりしますしね。
多少強引になろうとも、1作で完結させるべきだった、と思いますね。
人類が地下世界で何を得たか、までを描いてこそ評価につながるかと。
現状、執念の制作プロセスに圧倒される人たちにしか支えられてない気がします。
ま、遊び心たっぷりな作劇は結構好きかな。
でもそれだけじゃ、どうにもなんないですよね。
ねじレート 65/100