蜃気楼綺譚
1990年初出

またもや四畳半ものか・・と思わせておいて、謎の美女がマスターを務めるバーのお話だったりします。
この謎の美女、ってのがキモでして。
いかにも松本零士。
正体不明の、思わせぶりの、過去になんかありそうで、性に奔放。
で、バーは時空を超えて存在しちゃってたりする。
絶望したサラリーマンがやってきたかと思えば、あれよあれよと南北戦争時代に飛び、挙げ句に衛星フォボスの兵士が銃を持って訪れたりもする。
言語の壁すら存在しない特別な場所、という設定。
一話完結形式で、物語はさえない貧乏青年、立島の目線を通して描かれるんですけど、まあはっきりいって掴みどころがないです。
バーの主である女、摩耶が何を目的として店を開け、客と相対しているのか、よくわからないんですよね。
不埒で下賤な輩はひどい目にあったりするんですけど、別段悪を戒め弱きを救う意図があるわけでもないですし。
見える人にだけ見える場所であるバーが、どういう位置づけにあるのか曖昧なままなんで、なんの妄想なんだこれは?と読んでる途中でどこか醒めてしまったり。
マヨヒガの伝承を作者なりにアレンジして、SF仕立てとしたかったのかもしれませんけどね。
結局これは形を変えた四畳半ものなのでは?と思わなくもないです。
一応、最終話にオチらしきものがあるんですけど、これもねえ、物語の本筋と関係ないところでまとまっちゃってるんで、なぜそうなった?としか言えないもので。
摩耶の作画が過去にはなかったレベルでエロチックなのが収穫といえば収穫でしょうか。
相当気合入ってる、とは思いました。
その点を除けば、熱心なファンにしかアピールできない一作かもしれません。
ニーベルングの指環
1990年初出

これまでの登場した名だたる松本キャラが全て一堂に会して物語を、と言われればそりゃファンとしちゃあ飛びつかざるをえないでしょうが!と大興奮したシリーズ。
1巻発売時には本当に舞い上がりました。
同じ本の中に鉄郎もメーテルもハーロックもエメラルダスもいる!ちゃんと群像劇になってる!
ストーリーもじっくりと丁寧に重厚。
ワーグナーの楽劇を下敷きにスペースオペラをやる、という試みも類を見ないもので斬新に感じられました。
こりゃ集大成であり、最高傑作になるのではあるまいか、と打ち震えたんですが、残念ながらそれも2巻まで。
3巻でハーロックのオヤジが出てくる展開にひたすらテンションは降下の一途。
びっくりするほどおもしろくないだけでなく、ハーロックのカリスマ性をうち砕く全く配慮のないストーリーテリングで心底失望。
以降読んでいないので完結したのかどうかも知りません。
ウェブで調べた限りでは未完、となっていましたが、後に全8巻で新装版が発売されているので終わったのかもしれません。
どちらにせよ、 この作品が私の松本零士に対する興味を著しく減退させました。
ショックが大きすぎて以降作者の新作を追わなくなったほど。
感じ方は人それぞれですんで、そんなにひどかったか?という方も大勢おられるかとは思うんですが、なんかね、ぷつん、と切れちゃったんですよね、糸が。
80年代の終焉とともに、大好きだった作品は心の宝箱に入れて鍵をかけ、今日まで後続作品には目をそらしてきた、と言うのがいつわらざる実状ですね。
青春時代にもっとも熱心に作品を追った漫画家ではあったんですけどね。
私にとっては決別のきっかけとなったシリーズ。
再び松本零士の漫画を手に取るまでは長い時間がかかりましたねえ。
夢奥の細道
1991年初出

作者が見た夢をエッセイ風に綴った一作。
もちろんこの場合の夢とは将来的にこうしたい、ああしたい、という夢ではなく、眠っているときに見る、言葉通りの「夢」。
あまりにもたあいないというか、だからどうしたんだというか、ああそうなんですか、と相づちを打つしかないというか、なんの感想も抱けない、ってのが正直なところですかね。
だってオチも考察もなにもないんです。
こういうのが芸になるのは水木しげるだけだと思う次第。
色々無謀すぎます、先生。
超時空戦艦まほろば
1993年初出

原作問題でなにかともめた宇宙戦艦ヤマトをもう一度自分の手でリニューアルして、と言うことなのかな、と思ったりしたんですが、これまた未完。
戦場まんがシリーズ(1973)っぽい展開だったので序盤は大きく警戒したんですが、どうやらそうではないみたい、と確信が持てたところで突然唐突に終わり。
後から調べたところによるとケースハード(1993)の一編として発表された物を再編集したもののようです。
加筆があったのかどうか、そのあたりは不明。
ちなみに物語の骨格だけで言えば漂流3000万光年と酷似してます。
とりあえず、連載が続いていればまた評価も変わってきたか、と思うんですが、この長さではなんとも感想の書きようがありません。
別の作品で戦艦まほろばが宇宙を航行しているシーンがあったので、いずれはスターシステムに組み込まれる予定だったのかもしれませんが、今となってはすべてが幻ですね。
しかしまほろばの艦長がヤマトの沖田艦長にそっくりなのはどういうことなのか。
もう色々と整理がついてなくて、またそぞろ作者の悪い癖が・・・。
天使の時空船
1993年初出

銀河系宇宙を飲み込む、謎の崩壊断面から人類を救うため、レオナルド・ダ・ヴィンチが生存した15世紀のイタリアへとタイムトリップしたヒロイン、マミヤを描いた大河SF。
さて、なぜマミヤはダ・ヴィンチのもとへ向かったか?というと、彼女が暮らす22世紀のコンピューターが「この危機を救えるのはレオナルド・ダ・ヴィンチだけ」と断定したから、なんですね。
具体的になにをどうすることでダ・ヴィンチが手を貸してくれるのか?はさっぱりわかりません。
とりあえず、幼少期から彼を見守ることで、学んできます、みたいな。
そもそも「崩壊断面」って、なんなんだよ?ってところからしてよくわからないんで。
スケールだけはやたらでかいんですけど、はっきり言って物語の「引き」は恐ろしく弱いです。
15世紀に到着したはいいが、さしあたってすることが何もないんですね、マミヤ。
結局、ダ・ヴィンチの伝記ものがやりたかったのか?と思えるような退屈さでして。
そうこうしてるうちに、同じような理由で45世紀から別の女がやってきたり、アルバーノ山の魔女、と呼ばれだしたり。
まー、恐ろしく話が進みません。
延々、仲間内でごちゃごちゃやってるだけ。
本題に触れることなく、ストーリーは脇道に逸れ放題。
SFなはずなんだけど、この堂々巡りな感じは作者の四畳半シリーズにも似てるなあ、と思ったり。
読み進めれば読みすすめるほど不安になってきます。
相変わらずひたすら思わせぶりなんだけど、これちゃんと伏線回収して終わることができるのか?と。
ミライザーバン(1976~)にも共通する、時間の概念を思弁する物語の方向性や、並行宇宙に関する考察は面白いんですけど、なかなかそれがストーリーのうねりとなって大きく盛り上がってくれないんですよね。
ようやく物語が熱を帯びてくるのは最終巻、7巻に至ってから。
やっと重い腰を上げて崩壊断面の危機に取り組み出します。
迎えたクライマックスは、らしいといえばらしいですし、望外に詩的だったりもして、悪くはないんですが、難点は「ダ・ヴィンチ、なんの役にもたってねえじゃん!」と簡単につっこめてしまうことでしょうかね。
というか、物語に登場する必要すらない気もしますね、このエンディングだと。
マミヤがいったいなんの示唆を受けたんだよ!とつっこんだ人は大勢居たはず。
2~6巻までが内容的に全く必要ない、と感じられることも大きな問題かと。
コミックトム掲載作品らしいなあ、と思いますね。
もう、自由気ままにやりすぎ。
ただ、松本作品できっちり完結にまでこぎつけた作品って、長編だと本当に少ないと思うんで、そういう意味では希少かと。
設定の齟齬や辻褄の合わない部分もあるんですけどね、もうこれは作者の性質みたいなものだと思うんで、この際目をつぶっときましょう。
宇宙海賊も銀河鉄道も出てこない最後の松本SFじゃないでしょうか。
傑作とは言い難いですが、嫌いではないですね。
銀河鉄道999(エターナル編)
1996年初出

当時発行部数の低迷していた小学館の漫画月刊誌、ビッグゴールドの起死回生の策として大々的に新連載が発表されたのが本作。
ファンの間でエターナル編と呼ばれる999の続編です。
ビッグコミックスゴールドの単行本では、1~14巻までが少年画報社から発売になっていた全18巻と内容が重複しており、エターナル編は15巻から。
しかしながら999の第2部ですらゴールドの部数を飛躍的にのばす事はかなわず、99年、ゴールドは休刊。
それに伴い999エターナル編も未完のまま中断。
一時期はWEBで細々と連載が続いていたようですが、現在はそれも終了。
もちろん完結しておりません。
当時、999の第2部の連載にともない、第2次松本アニメブームと呼ばれるものが到来しており、本作はもとより、いくつかの作品が10数年ぶりにテレビ画面をにぎわせたんですが、それも昔のファンを再動員しただけで早々と終息。
だだアニメ化のあれこれが本作にあまりよろしくない影響を及ぼしているのは確かで、同時進行中のアニメ作品と漫画作品との間でお話の辻褄が合うようにと作者が腐心したため、アニメを見てない人間にはよくわからない取り繕いが目立ち、どこか焦点の定まらない内容になってしまってます。
だいたいエメラルダスとメーテルが姉妹で、1000年女王の雪野弥生もなんかつながりがある、っていう設定自体が無茶苦茶なんですよね。
毎回毎回やたらハーロックだのエメラルダスだのヤマトだのまほろばだの出てくるのにも興ざめ。
ほとんど出オチ状態。
そんなに暇なのか宇宙海賊は、って感じで。
かつての999に比べてやたら鉄郎が激情的になったなあ、とか、もう暑苦しいまでに松本イズムに拍車がかかっててストップが効かないとか、あまり好ましくない変化もあり、最終的には21巻で銀河鉄道を統べる新キャラ、ジュラが登場、話が完全に別の方向にシフトした段階で、ああ、こりゃもう風呂敷広げすぎだ、とため息ひとつ。
多分、もう続きが描かれることはないんでしょう。
というか、描けないと思う。
あの999の続編、という事でニーベルングの指環(1990~)以降、新作を読んでなかったにもかかわらず手にとった本書ですが、思い出はそのままにしておいたほうが良かった、と肩を落とした一作。
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