日本 2023
監督、脚本 原田眞人

共感できる人間が誰1人として登場しない傑作和製(関西系)フィルム・ノワール
特殊詐欺を生業とする姉弟を描いたクライムサスペンス。
原作は黒川博行の「勁草」、私は未読。
とかく、テンポよくお話が進んでいくのにまずは感心。
ストーリー進行のフットワークが軽い、というか、余計な演出で立ち止まらない、というか。
私は原田眞人監督のことを詳しくは知らないんですけど、73歳でこうも身のこなしがかろやかな映画が撮れたらたいしたものだと思いますね。
感性が若い、もしくは制作スタイルが一貫してるかのどちらかでしょうね。
前作、ヘルドックス(2022)も大御所が撮るような映画ではなかったですが、今回も衰えず軽妙で、たいしたものだなあ、と。
この映画に安藤サクラをキャスティングするセンスも良し。
もちろん本人の高い資質、力量あってのことだと思うんですが、舌を巻くほどに彼女が役柄にどハマリしてて。
ネィティブな関西弁を違和感なく使いこなしてることにも唸らされたんですが、その佇まい、振る舞いがね、ほんと濃ゆい大阪に生息するちょっとやさぐれたお姉ちゃんそのままでね、お前はどこで見てきたんだ!?と。
憑依芸どころか安藤サクラは出自を偽ってる、とすら思えてくるレベル。
彼女が主人公ネリを演じたことで映画の8割はもう成功してる、と私は思った。
また、社会の裏側で犯罪に手を染めることでしか生きていけない人間たち、その日暮らしで生きていくこと以外に選択肢がなかった人間たちを高い現実味でもって描いていく作劇もいい。
ああ、西成の闇に蠢く連中って、ホントこんな感じなのかもしれないな、と変に納得できてしまうんでね、警察との攻防、鴨葱な老人とのやりとり等、やたら真に迫って感じられるんですよね。
賢い姉ちゃん(ネリ)が、アホな弟(山田涼介)の面倒を渋々みてる絵面に物語がひっぱられていくのも私はなんか好きで。
70年代の犯罪映画やテレビドラマをふいに思い出したり。
結局のところ、ネリだけでなく、それぞれの登場人物をないがしろにすることなく血の通った存在として立脚させたことが全てを上手く回してるんだと思いますね。
投資家を演じた淵上泰史や、黒幕を演じた生瀬勝久とか、一度見たら忘れられぬ出色の嫌らしいキャラクターだと思いますし。
物語の終劇が、弟の秘めた思いを打突点として一気に動いていくのも、よくできたシナリオだと思った。
正直ね、これは予想できてはいた。
多分そうなるんじゃないかなあ、とは思ってた、けれどだからまるで胸打たれないか?というとそんなことは決してなくて。
やると思ってたよ、馬鹿野郎、と鼻の奥につんとくるものがあったり。
で、監督がね、それを一切湿っぽく描写したりしないんですよ。
泣かせてなんかやらないよ、とばかり、あっさりとシーンを次へと進めていく。
そんなドライさが際立たせていたのが、ドブ泥の中を這いずり回って生きてきた人間の、なけなしな生への渇望だったのでは、と思ったり。
ああ、これ、ただ懸命に生きることを描いたドラマじゃないのか、と。
悪人だから、犯罪だからどうとかじゃなくて。
なんか久々に骨太なピカレスクを見た気がしましたね。
いや、面白かった。
和製(関西系)フィルム・ノワールの傑作でしょう、これ。
安藤サクラのファンならずとも見て損はなし。
ねじレート 93/100