ギレルモ・デル・トロのピノッキオ

アメリカ 2022
監督 ギレルモ・デル・トロ、マーク・グスタフソン
脚本 ギレルモ・デル・トロ、パトリック・マクヘイル

イタリアで出版された世界的童話「ピノッキオの冒険」を15年かけて翻案、ストップモーションアニメ化した一作。

もう、冒頭10分で、あまりの美しさに心震える状態でしたね。

決してストップモーションアニメに詳しいわけではないんですけど、これまでに見た大手スタジオの諸作品(犬ヶ島とかKUBOとか)すら霞んで見えるほどの躍動感、背景の作り込みがあって、ワンシーン、ワンシーンがまるで昨夜見た夢のように鮮やかで。

キャラクターの動きの滑らかさにも舌を巻いた。

VFXな処理が施されてるのかもしれないですけど、ストップモーションアニメでここまで細かな動きが表現できるものなのか?と舌を巻くほどに生々しく、自然。

いやこれ、相当な入れ込みようだな、と。

気合の入り方が半端じゃない、デル・トロ監督。

シナリオ展開もなかなかに強烈で。

原作読んだことないんで、カルロ・コロディの小説に忠実なのかどうなのかはわからないんですが、ゼペット爺さんが息子を失うシークエンスなんて鳥肌もので衝撃的。

偶然が招いた悲劇的事故としか言いようがないんですが、背景に忌まわしき戦争の影があり、シチュエーションに神をも救いとならぬ残酷さがあって。

宗教的解釈は人によって違ってくるのかもしれませんが(原作はキリスト教的思想が色濃いらしいので)私は、これを教会を舞台としてやるか!?と震撼でした。

神も仏もあるものか、の情景ですよ、はっきりいって。

そりゃこんなことがあったらゼペット爺さん、人格も変わる。

で、私が今更ながら驚いたのは、いわばピノッキオってフランケンシュタインの怪物と同じ箱に片付けて良い異形だったんだな、って気付かされたこと。

これね、死んだ子どもの代わりに等身大の人形を用意して子ども代わりに愛でる狂った御婦人の図式(ある種のホラーなお話のテンプレート。そういやザ・ボーイってな映画がありましたね)とやってることはまるで変わらないわけですよ(すまん説明的でくどくて)。

これまで意識したことはなかったけど、ピノッキオって、いわば呪いのからくり人形みたいなもんじゃないのか、と仰天。

こんなのミーガン(2023)以上に受け入れられんわ!って。

ま、実際に受け入れられなかったわけですけど。

ゼペット爺さん本人ですら「なんでこんなものが動き回ってる?」と半ば拒絶してる状態ですからね。

以降の進行も、予断をゆるさぬものの連続。

戦時下における異形の存在が、どう社会と折り合いをつけていくのか?を至極現実的かつ、あけすけに描いていくんですよね。

いわく、その不死身性をかわれて軍隊にスカウトされたり。

いわく、フリークス扱いでサーカスに売られたり。

いやこれほんとに童話なのか?ってなぐらい、遠慮呵責がない。

そこで浮き彫りになるのは、周りの大人の薄汚さ。

自らの異常性に無自覚なこともあってか、より鮮明に、やがて人以上にピノッキオは聖性を帯びていくんです。

なんだか、よく知ってるピノッキオとかなり違ってきてるぞ、って。

いったいどう落とすつもり?これ?と。

そして迎えたエンディング、驚くほどに静かです。

いささか都合良すぎる筋立てが直前にあったりはしたんだけど、人ではない、そして人にはなりきれない異形が、無垢なる奉仕者としてその生を貫くとどうなるのか、時の過ぎゆく果てに目線を添わせながら物語は視点を遠くに結ぶ。

ああ、これはパンズ・ラビリンス(2006)と対を成す物語だったんだ、とふいに気づく。

死の向こう側と、生の向こう側、たどり着いた場所に何があったのか、デル・トロの思い描く桃源郷に思いを馳せてしまったエンドロールでしたね。

もう最近ゆるすぎるな、とは思うんだけどまたも涙腺決壊。

傑作だと思いますね。

まさかピノッキオがこんな物語だったとは思わなかったし、なんなら大きく誤解すらしてた。

巨匠、入魂の一作。

ファンなら必見かと。

ねじレート 92/100

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