日本 2023
監督、脚本 北野武

かの有名な「本能寺の変」を、これまでにない視点で描き出した異色戦国絵巻。

なんせ北野映画で時代劇なんで、座頭市(2003)みたいな感じなのかな?と思ってたんですが、蓋を開けてみたら最初から最後まで狂ってて色んな意味で感心しましたね。

ビートたけし、御年77歳にしてこうも八方破れな映画を撮るのか、と。

いやね、滅茶苦茶やるのも体力、気力が必要だと思うんですよ。

もちろん計算ずくだとは思うんですけどね、それにしたって変にテンション高すぎだろう、と。

ちょっと舐めてたな、たけしのことを、とつい反省したり。

やはり独特だったのは、織田信長配下での権力闘争における駆け引きが、男同士の痴情沙汰を背景に進んでいったことでしょうね。

挙げ句には織田信長本人も巻き込んで男色天国ときたもんだから、いったい俺は何を見せられてるのか?と。

いや、当時は男色も当たり前だったことは承知してますが、それにしたってね、西島秀俊(明智光秀)と遠藤憲一(荒木村重)の絡みとか、キツいのを通り越して半分以上ギャグにしか見えなかったりもするわけですよ。

かたや、豊臣秀吉演じるたけしは配下の大森南朋(羽柴秀長)や浅野忠信(黒田官兵衛)と延々コントみたいな掛け合いやってて、これもネタとばかりに周囲を巻き込んで刃傷沙汰で血飛沫だったりしますから。

戦国残虐絵巻は軽妙なトークでふわっと黒い笑いにしとくから、主筋である明智光秀の謀反に関しては痴情のもつれってことでよろしく?みたいな。

はい、全面的にふざけてます

で、これって逆に言えば「一国の頂点を奪い合う争いとはいえ、しょせんはこの程度の卑しさ、低俗さ」と切って捨ててるわけで。

ま、強烈なアンチテーゼですよね、戦国時代ファンが激昂しそうなレベルで。

いやもう、切り口がすげえな、と。

私はたけしの映画って、世間の評価ほどには感銘受けてなくて、彼の描く暴力も笑いも「好きな人は、はまるんだろうな」って程度にしか受けとめられてなかったんですけど、今回に限っては、初めて「面白い!」と唸らされましたね。

ある意味、時代劇の様式そのものをぶっ壊しにかかってくる時代劇、だと思うんですよ、これって。

なのにおかしなはみ出し方をしてない。

異色ではあるが、踏み外さないだけのバランス感覚とさじ加減は見失ってない。

現代的な言葉遣いを採用して、一切武士言葉を使わない作劇といい、下手すりゃ珍妙な的外れになりかねないものをちゃんと戦国群像劇として成立させているのがさすがだな、と。

小道具や合戦の描写に手を抜いてないのも功を奏したように思います。

絵に説得力があるんですよね。

どこか大島渚監督の遺作「御法度」(1999)との共通点があるように感じられるのも興味深かったですね。

うがった見方ですが、たけしは自分なりの御法度をやりたかったのかな、と思ったりも。

ウィットに富んだラストシーンも見事。

そういう形でタイトルに絡んでくるのか、と。

たけしの作品をすべて見ているわけではありませんが、私の中ではベストといっていい1本でしたね。

それほど評価が芳しくないのは何故?

あと、みんな言ってるんでしょうけど加瀬亮(織田信長)のぶっ壊れた演技はすごかった。

尾張弁で狂騒的にまくしたてるキャラを作り上げたたけしの功績なのかもしれませんが、最初誰なのかわかんなかったですからね、完全にイッてて。

多彩なキャラを楽しめるのもこの映画の魅力かと。

ねじレート 90/100

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