1960年代の松本零士、6作品

火星令嬢
1968~74年初出

<収録短編>
ゼスラス第3紀
太陽系狙撃兵
天地創造第二番
オルバース
幽霊夫人
ネアンデルタール
マシンナーバン
冬眠惑星
大魔女王第3紀
火星令嬢

2015年現在、この短編集以前の作品も刊行されていますが、私が若い頃は作者の68年以前の著作って、書店では見かけませんでした。
なかなか現代の審美眼でははかれないものがあるのは確かなんですが、機械人間であったり、戦場ものであったりの、後の松本零士を語る上でのキーワードはすでに散見されます。
SFを描こうとする意欲は豊潤だったと思います。
この時点ではとても国民的ヒットを飛ばす漫画家になるとは予想もつかない、といったところでしょうか。
なにもかもが未成熟で、お世辞にも良く出来てるとは言えない。
熱心なマニア向けの1冊ですね。


ダイナソア・ゾーン
1968年~70年初出

<収録短編>
ダイナソアゾーン
コスモレディSS
ミユから来た女
大魔女境
グレートウエスタン
L婦人漂流記
未来盗賊アリババ
妖女セレスト

主に漫画ゴラクに掲載された短編を集めたもの。
大人向けのエロありコメディありのSFが多い印象ですが、どことなく屈折した女性観やペシミスティックな作劇指向はすでに顕在。
どちらかといえばマニア向けですかね。
ヤマトや999のイメージで飛び込むと大やけどするかもしれません。
広く共感を得る内容とはとてもいいがたいんで要注意、といったところでしょうか。


セクサロイド
1968年初出

近未来を舞台としたSFスパイ活劇。
当時の流行なんかも取り入れてのスパイものなんでしょうが、設定は結構いい加減です。
そもそも物語の基本パターンとして、主人公がパートナーであるセクサロイド・ユキを救うために敵の女とベッドをともにし、その後ユキとも情事に励む、の繰り返しなので、スパイものらしき緊張感はほぼなし。
ま、この時代、今も名が残る大御所漫画家ほぼ全員が似たような安いエロ活劇を描いてるんで掲載誌の要求もあったんでしょう。
カミヨ計画編、ヤヨイ計画編、第3計画編と3部構成からなるストーリーなんですが、各話の構成が上述したように怒濤のマンネリズムに陥っているので、どちらかというとSFはあんまり意識しないほうがいいかもしれません。
どことなく石ノ森章太郎の009ノ1っぽくもあるんですが、飄々とナンセンスな印象はモンキーパンチ風でもあります。
プレ松本零士、といった感じですね。
妙に思わせぶりなのはすでにこの頃から顕著だったりしますが。
これまた熱心なファン向きですね。
初期の代表作と捉えられてますが、必読というほどではないか、と。


魔境惑星の恋人
1969~80年初出

<収録短編>
魔境惑星の恋人
シティD60001年愛するレイ
インパルスドーム
猿人1470号
空白帯のひとりむすこ
地底潜水艦
サケザン雷帝

適当にエロティックで適当に悲劇的なSFが多く、とりたててどうこういうこともなし。
特に傑出した短編はないですね。
これもマニア向けの1冊ですねえ。


マシンナーズ
1969年初出

初期の秀作。
近未来、何故か日本人だけが絶滅した地球で、長期の星間航行から戻った主人公モリが単身その謎を探るための放浪の旅を描いた物語。
今読むといささか陳腐なガジェットや演出、設定は確かにあるんですが、こういうプロットって、あまり他に見当たらないように私は思います。
特に最終回、執念だけで生きながらえるモリが本懐を遂げるシーンは、その選択の容赦なさ、その後の顛末も相まって胸に迫るものがありました。
セクサロイドやミステリーイブに共通する安いエロチシズムに閉口する部分もあるかもしれませんが、作者ならではのナショナリズム、渦巻く怨念を全面に押し出した作劇は後の創造性の核を想起させるものであり、勝手な想像ながらここから派生していったものも多くあるのではないか、と思う次第です。
「らしさ」が萌芽した一作。
ファンならおさえておくべき作品ではないでしょうか。


四次元世界
1969年初出

私が読んだのは合本になる前の旧版全2巻。
COMに連載された連作短編、四次元世界シリーズを収録したもの、と思われますが、シリーズに属さない他の短編も含まれているような気も。
基本どれもSFなんですが、まあとにかく暗い。
大人からも社会からも見向きもされない、生きるのに不器用な貧乏青年の苦悩をこれでもかと描写。
多くの短編で擬人化した虫が登場するんですが、虫を好んで描く人は本当に辛くて孤独な青年時代をおくった人だ、と言う話をどこかで読んだことがあります。
作者の下積み時代の苦労が反映されているのかもしれません。
どこかあすなひろしや初期の坂口尚に通ずる詩情があるなあ、と思ったりもしますが、私の場合それでも読んでいて結構しんどくなります。
もう本当に哀れでやりきれなくて。
各話に共通するテーマから察するに、SFの体裁を取り繕わなくてもこのシリーズは成立したのでは、と思ったりも。
漫画家残酷物語とかバイブルな人にとっては胸に迫るものがあるかもしれません。
これもまた松本零士の一側面であるとは思いますが、なかなか現代の共感は得にくいかもしれないですね。
ここから突き抜けて大四畳半シリーズに至ったのだとしたら、まさに前夜、と言えるかもしれませんが。
コアなマニア向けだと思います。


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1970年代の松本零士、36作品

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