1960年代の永井豪、3作品

ハレンチ学園
1968年初出

当時の少年ジャンプに連載が開始されるや否や大反響を得て、作者の名を一気に世間に知らしめた一作。
世間を巻き込んで世の親達から大きくバッシングされた作品としても有名。 
この作品を有害図書指定しようとした動きすらあった、というのだから驚きです。
いったいどれほどの俗悪な表現が?と後追いの私は眼を皿のようにして通読してみたんですが、読後に思ったのは「いったいこの作品の何がそうも批判の対象にさらされたのか、さっぱりわからない」でした。
他愛ない、というのが正直な感想。 
でたらめで奇人変人だらけな教師と主人公のドタバタを描いた学園ギャグなんですよね。
エッチな描写も後の永井作品に比べたら全然ソフトで、ヌードシーンにおいてもバストトップすら描かれていないんです。
これを性的に問題ある描写、などといったらもう女性は漫画にだせない、と思いますね。 
教師の権威を地に落とし、あしざまにからかった態度が問題視されたのでは、と後に言われてますが、それだけのことで「作者の人格すら否定」するほどの社会的攻撃にさらされた、というのだから本当に集団のヒステリーってのは恐ろしいと思う。
読みどころはやはり他でも言われているように第一部のラストを飾る「ハレンチ大戦争」の回ですかね。
批判に呼応してメタフィクション化するかのように、大日本教育センターの大人たちがハレンチ学園を殲滅すべく、戦争を仕掛けてくる展開は、これまでのギャグ路線とうってかわって凄惨極まりなく、キャラクターの屍が累々と積み上げられていくシーンはデビルマンの終盤にも似て恐ろしくショッキングです。
 読んでて泣き出した子供もいたのではないですかね。
この時代にこんなことをやったギャグマンガはどこにもなかったと思います。 
それは間違いない。
その後、編集部の懇願で何事もなかったかのように第二部、第三部と連載は続いていくんですが、今、改めて読んで評価できるのはやはり第一部までですかね。
しかしいうなれば世間の大きなバッシングがこの「ハレンチ大戦争」の回を産んだ、ともいえるのだから皮肉なものだ、と思ったりもしますね。
実は永井豪という大漫画家を「起こして」しまったのは当時の良識ある大人だったのでは、と思う次第。
作者の才気が見え隠れする記念碑的作品ですかね。


キッカイくん
1969年初出

作者初期のギャグ漫画。
生活ギャグ、とでもいえばいいんでしょうか、後年のイメージとは何もかもがまるで違って驚かされることしきり。
おなじみ冷奴先生はすでにメインキャラクターで登場してはいるんですけどね。
絵柄が全盛期と微妙に違うせいもあり、まるで別人の作品のようだ、というのはありますね。
作品のノリも2巻ぐらいまでは藤子不二雄と赤塚不二夫を足したような感じ。
4巻ぐらいから段々「らしく」なってきて、ピンチーはばんばん脱ぎだすわ、ストーリーは破壊的にでたらめになるわ、じじいいじめは加速するわで、あ、なにかつかんだな、と実感するんですが、さらにおもしろくなりそうなところで残念ながら終了。
連載開始当初から終盤に向けて、じわじわと変貌を遂げた作品だと思います。
後の永井作品に連なる要素が本作で散見できるってのが収穫でしょうか。 
格別に名作というわけでもないと思いますが、ファンには興味深いシリーズじゃないかと思います。


あばしり一家
1969年初出

キッカイくんをさらに個性豊かな犯罪一家にしたてあげて大暴れさせたのが本作だと思います。
そこに加味されたのは「バイオレンス」と「SF」。
基本、ギャグタッチなんですが、派手に流血する陰惨な暴力的シーンが同居していて、なんか気が抜けない、というのが本作ならではの独特さでしょうね。
破天荒にデタラメながら、妙にシリアスでSFな回もあり、特に法印大子の回なんていったいどうなるんだろう、と子供心に実にハラハラさせられました。
ギャップがすごいんですが、その落差こそが病みつきになるというか。
良い意味でゴージャスな香港映画のような作品。
混沌としてるんですが、のちの活躍を予見させるような場面や作劇が多々あり。
持ち味のすべてがふんだんに発揮されている印象を受けました。
統一性、整合性のなさに戸惑う人もいるかも知れませんが、永井豪というのはこういう漫画家なんだよ、とこの一作で全部説明できる気もしますね。
まだ頂点には達していないものの、それ故の奔放さが魅力か。
とりあえずヒロインの菊ちゃんがかっこよくてセクシーで最高。


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