神が描くは曲線で

スペイン 2022
監督 オリオル・パウロ
脚本 オリオル・パウロ、ギジェム・クルア、ララ・センディム

1979年、スペインの精神病院にて謎の死を遂げた患者について調べるために、パラノイアを偽装して病院に入院した女私立探偵を描いたサスペンス、NETFLIXオリジナル。

序盤早々、あれこれ違和感を感じるのは確かなんです。

パラノイアを偽装するなんて可能なのか?とも思うし、私立探偵が精神病院に潜入って、報酬がいくらなのかわかんないけど、市井の探偵がそこまで危険を犯すだろうか?とも思うし。

病気を偽装することが罪に問われるのかどうかはわかりませんが、ヤクザ組織に潜入するわけじゃないのだから職業探偵としてのモラルというか常識を問われる部分はやっぱりあると思うんですよ、金銭が発生している以上はね。

ただそれも1979年のスペインで精神病院、となると、あまりに知らなすぎてなにが当たり前で普通なのか、全くわからなかったりもするんで。

当時は精神病院も探偵もそんな感じだったよ、と詳しい人に言われたら、そうなんですか、と納得するしかない。

ただまあ、日本人的感覚からするとね、警察や諜報機関の人間じゃないんだからそこまでやらないだろ、と思ったりもする。

つまりは、物語世界にいまいちのれない

また、精神病院が舞台、となるとどうしたってドグラ・マグラを思い出す部分もあったりして。

ま、比較しちゃいますよね、キャラも設定も全く違うとはいえね。

正直、前半は割と冷めてました。

謎の死を遂げた人物、ダミアン・デルオルモの謎もそれほど興味をそそられなくてね。

私がやや前のめりになったのは中盤以降。

主人公アリスが主張する事実関係のいくつかが、真実でないと発覚するんです。

俄然、疑われだすアリス。

本当は探偵などではなく、虚言癖があるだけではないのか?と拘束され、電気ショック等の前時代的な治療を受けさせられる羽目に。

いや、この展開はね、よくあるパターンとはいえ、怖かったですね。

いくら自己弁護したところで「はいはい、ご病気治しましょうね~」って、誰も耳も傾けてくれないわけですから。

これ、どうやって挽回するんだろ、ちゃんとまとまるのか?と虚々実々な進行にヤキモキしながら迎えたエンディング、一旦は、そりゃそうだよな、そうでないとおかしいし、と誰もが納得する場所に着地します。

意外性はないけど、ま、至極納得のオチか、と思ってたんです。

そしたら、だ。

その後に、おまけみたいな感じでオリオル・パウロ監督は、すべてをひっくり返す驚愕のどんでん返しを見せつけてきます。

いやもう本当に監督らしい、と思う。

この人は自分に何を求められているのか実によくわかってるな、と。

でもね、今回ばかりはちょっとミスリードが下手だったかな、と思うんですね。

誰もが疑う余地のないぐらい鉄壁なお膳立てだったか?というと、そうでもないですしね。

のれなかったがゆえ、そう感じてるだけなのかもしれませんが、最初からどこか設定に違和感がありましたし。

そこはね、一ミリも疑う余地がないぐらい完全に騙してほしかった。

ダミアン・デルオルモの死の謎と、主人公アリスにまつわる疑念を同時に追ったのもあんまり良くなかった。

散漫に映っちゃうんですよね。

時間が前後するシナリオ構成もいらぬ混乱を招く原因となってる気がする。

早い話がこの内容で155分ってのが長すぎるんじゃないか、と思うわけです。

驚きのどんでん返しに向かって、もう少しスッキリとお話をまとめられたんじゃないか?と。

なんかもう情報詰め込み過ぎててね、せっかくのオチが蛇足みたいになっちゃってるのがもったいない、というか。

大作だと思いますし、及第点はクリアしてると断言できますが、インビジブル・ゲスト(2016)や嵐の中で(2018)の出来が素晴らしかったがゆえにどうしても見劣りしてしまう、というのが正直なところでしょうか。

ま、あの水準の映画作品を量産し続ける方がおかしい、って話でもあるんで、あんまり厳しいことを言うのは酷か、と思ったりもします。

あんまり当たりくじが多くないNETFLIXオリジナル作品の中では上位にランクイン、と言えるかな。

監督のファンなら見ておいて損はないですかね、なんだかんだ文句いってますけど私、いやすまん。

ねじレート 86/100

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