マアチャンの日記帳
1946~72初出

手塚治虫が各社新聞紙やPR誌、ミニコミ誌に連載した四コママンガ、小編を集めたもの。
私が読んだ中で一番年代の古い作品です。
「フクちゃん」が好きで影響を受けた、とおっしゃってますが、表題作も含め読後の感触は確かに「フクちゃん」に近いかも。
まあその「フクちゃん」自体、熟読したわけではないのですが。
さすがに昭和21年の漫画ですんでね、はっきりいって他愛ないです。
これをどうこう言えるなにかは私の中にはありません。
個人的におもしろいと思ったのは発表年代の一番新しい「おはようクスコ」で、支離滅裂なんだけど先生らしいドタバタぶりが楽しいです。
資料的価値、と言った方がいいかもしれません。
新宝島
1947年初出

一般に手塚治虫のデビュー作、といわれていますが実は酒井七馬氏との共著。
当時のベストセラーらしいですが、勝手に改変された部分等あり、先生としては納得のいかない内容だとか。
さらに当時のマンガは「描き版」といって版下屋が原稿を自筆でトレース版に引き写して印刷していたので、版下屋のうまい、下手で大きく印刷後の出来が違ったようで、中でもこの「新宝島」はひどい出来だったとか。
生原稿を紛失しており、全集は「描き版」から修正を経て復刻。
最後まで先生は出版に反対しておられたらしいですが、まあ読んでみて納得。
正直、好事家以外はあえて手を出す必要はないと思います。
形式はほとんど4コママンガだし、オチは禁じ手だし。
手塚治虫の作品を追う上で記念碑的一作なのは間違いないと思いますが、それ以上の価値は私には見い出せませんでした。
ロストワールド
1948年初出

商業デビュー作ではないんですが手塚先生が中学生の頃から温めていて私家本も作っていたという最初期の長編です。
作画とかコマ割りとかとても全盛期の手塚治虫には似ても似つかぬ有様でほとんど別人と言っていいと思うんですが、なんせ昭和23年発行のマンガですから。
そりゃもうしかたがない。
終戦直後ですよ。
逆に終戦直後によくぞここまで、と、私は思いました。
正直何もかもが前時代的ではあるんです。
それでも私が驚かされたのは見事に「SF」である、ということ。
特にエンディング、異星にとりのこされた敷島博士のセリフは当時にしては衝撃的だったと思います。
しかもパートナーは植物型人間。
人じゃなんですよ。
いやこれ何事か、って。
あちこち手を加えてやれば立派に現在でも通用するストーリーだと思います。
といいいますかね、20代前半で、規範とするものもなく手探りで、これだけのものを描きあげた手塚は間違いなく早熟の天才だ、と私は思いました。
当時で40万部を売り上げた大ヒット作だったらしいんですが、子供の頃にこんなものを読まされた日にゃあそりゃ人生も変わる。
現在の審美眼で量るのは何かと難しいものはあるとは思いますが、でもやはりこれは漫画史にくさびを打ち込む傑作だと思います。
ここを基点にして日本独特の漫画なり、アニメなりのSF文化が花開いていったんだと私は思います。
ちなみにコナンドイルのロストワールドとは無関係です。
地底国の怪人
1948年初出

手塚治虫初期の長編、第三作目。
センターオブジアースってなプロットで、普通に地底冒険もので、まあこんなものか、ってな感じなんですが、最後まで読んで私は仰天しました。
えーこう終わらせるのか!と。
あとがきによると意図的にそうした、とのことですが、まさかこの時代のこのような漫画で異形ゆえの悲劇をみせつけられるとは思ってもみませんでした。
昭和23年に、もうこういう事をやってるのか手塚治虫は、と感嘆。
多くの読者が「泣いた」とのファンレターを先生のもとに送ったらしいですが、そりゃ泣きますよ、こりゃ。
いい大人の私でもぐっと来る。
アイディアにマンガという表現形態が追いついてない感じすらうけました。
いやはや凄いです。
時代を考えるとそのテーマ性は恐ろしく早かったように思います。
もちろん色々古いのは間違いないんですが、手塚治虫という天才の早熟ぶりを知るには避けて通れない1冊でしょうね。
時代を超えた傑作でしょう、これは。
メトロポリス
1949年初出

人造人間の悲劇を描いたSF長編。
フリッツラングのメトロポリス(映画)とは全く無関係です。
掘りさげるなら、テーマは地底国の怪人とかぶってます。
というかこれはもう柳の下にの二匹目のドジョウ。
当時はヒットした作品らしいですが、今読むと初期の作品の中では一番質は低いかも、と思わなくはありません。
シナリオ構成にも難があるような気がします。
ちょっと借り物が多すぎるような感触も。
後にりんたろう監督、大友克洋脚本で大胆に改変され、劇場アニメ化されていますが、なぜこの作品なんだ?と疑問。
リアルタイムで読んでいた少年たちにとっては、当時、手塚治虫の描く未来世界がとてつもなく衝撃的だった、という事なのかもしれませんけどね。
そこは21世紀の再読ではどうしてもわからない部分。
私には語ることのできぬ作品なのかもしれません。
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