全領域異常解決室

2024 日本 全10話
演出 石川淳一、根本和政、松山博昭、都筑純一
脚本 黒岩勉

さて、このブログを普段から閲覧してくださっているヘヴィユーザーな皆様方(居るのか?)ならご存知かと思うのですが、私は連続テレビドラマをほぼ見ない人でして。

理由は簡単で「恐ろしく時間をとられる」から。

普通に仕事しながら映画見て、ブログ書く、というルーティンをこなしていると、最低でも一作品について4時間は必要(見るのに2時間、書くのに2時間)なわけですよ、遅筆なんで。

連続ドラマだと4時間で最後まで見れる、ってことはほぼないですよね。

ドラマ見てる間に映画5本ぐらい見れてしまう、って話で。

優れた作品がたくさん埋もれているであろうことは想像がつくし、見ないのは損なこともわかってるんですが、人生は有限なんで、残り時間を私はやっぱり映画に費やしたい、と思ったんですよね、10年ぐらい前のある日、テレビをぼーっと眺めながら。

もちろん例外はあります。

私が好きな監督がドラマの総指揮してたりしたら(ストレインとか)なんとか時間捻出するし、これは主義を曲げてでも見とかないといけない、と思ったものはあえて全話一気見したりもする。

で、今回なんですけど、実はそのどちらでもなくて、はからずも時間を持て余す状況に私が陥ってしまったから手を出した、というレアケースだったりするんですが、いや、普通にびっくりしましたね。

普段、よくお話するお姉さんからも勧められてたんですけど、まさかここまで面白いとは思わなかった。

<第1話>

いや、正直言うとね、1話目とか相当やばいな、と思ったんですよ。

科学的、物理的に解決できない不可解な事件を専門に担当する政府直轄の組織が全領域異常解決室である、という設定自体が、凄まじく色々こじらせてる少年漫画のようだし、また事件に首を突っ込んできた解決室の室長代理、興玉雅が「これはシャドーマンの仕業ですね」と真顔で言ってるのを見て、・・・えっ、この人正気?とマジであっけにとられましたし。

シャドーマンって・・・。

今どき、オカルトマニアでもそんなの信じてる連中居ない、という話で。

学研が発行してるカルト雑誌、MUの熱心な読者ぐらいですよ(今でも居るのか?)、シャドーマンって聞いて喜ぶのは。

早い話が空気読めてない。

はっきり言って、反応してもらえるだけでもありがたいレベルで、普通なら半笑いで無視ですよ、シャドーマンとか言い出す酔狂なバカは。

やばいやばい、これはもう無理かも、見れないかも、と思ったんですけど、なんせ時間を持て余してるもんで(この時は)、なんとなく続けて流し見した2話目で少し印象が変わる。

<第2話>

相変わらずキツイ部分はキツイんですよ、ケサランパサランを存在する前提で話してる展開(古くは江戸時代からケサランパサランの存在は相当胡散臭いとされていた)とか、狐憑きを真顔で論ずる展開(現代では抗NMDA受容体抗体脳炎を代表する精神疾患だと言われている)とか、正直ウンザリするんですけど、それを差し置いて進行するサスペンスフルな作劇、謎が謎を呼ぶストーリー構成が思ってた以上に面白かったりする。

特筆すべきは興玉雅役である藤原竜也の演技

生物の教師に右手をかざす場面で鳥肌たちましたね、私は。

よくぞまあこんな胡散臭いドラマでここまで神々しい演技ができるな、と。

藤原竜也が全部持っていった気がしましたね、いや、これは3話目以降も見るべきだと確信。

<第3話~5話>

ま、以降も相変わらずね、タイムホールとか(バックトゥザフューチャーかよ)縊鬼(鬼太郎呼んでこいよ)とか、警察をあえて煙に巻くにしてもあまりに説得力がなさすぎる中2病的言説が続きますが、5話目にて、冒頭から引っ張り続けた謎が一旦の種明かしを経て、物語は一気に加速しだします。

なるほど、日本の古代史を中核のプロットとしたか、と。

実は古代史、って数年前からちょっとしたブームで、漫画の世界だとカムヤライドとか峠鬼とか、古き神々を描いた作品がぽつぽつ出始めていて。

今まで創作の題材となるのはせいぜい古墳時代(卑弥呼)以降だったと思うんですが、もうあらゆるメディアにこすられ続けて日本史のどの時代にスポットをあてたところで新しいものを作るのは無理、みたいな感じだったと思うんです。

そこで注目され出したのが神々の時代だと思うんですけど、映像でそれをやったのはこのシリーズが嚆矢なのでは、と思いましたね。

日本のドラマや映画は詳しくないんで自信はないですけど。

また八百万の神々が決して強大な力を持つわけではなく、人に寄り添いながらそっと助けの手を差し伸べる存在である、と設定したのも良いと思いました。

神々ですら縛りがある、というルール作りは物語を紡いでいく上で実に巧緻だと思いましたね。

<第6話~9話>

6話目以降の進行はまさに怒涛。

喉の奥に引っかかっていた魚の小骨数本が一気に胃の腑へと流れ落ちる勢いで、いろんな人物の正体が次々と明かされ、物語は大きくうねりを見せる。

特にツクヨミノミコトの顛末は、神と人間の立場の逆転という衝撃の構図にて、我々に手ひどく厳しいメッセージを投げつけていて震撼。

これほど強烈なアンチテーゼが近年あっただろうか、と慌てるほどに強烈。

スサノオノミコトをああいうキャラで登場させたのも恐れ入った。

ギャップを狙ったんでしょうけど、そのギャップがあまりに痛々しくて、もういいよ、人類全滅エンドでOKとすら思わせてしまう。

完全に演出に乗せられてる自分を実感しましたね。

<第10話>

やはり一番すごかったのは、ヒルコの正体を暴くミステリな展開と同時に、アメノウズメノミコトとアメノイワトノワケノカミの秘めたる恋を切々と綴ったことでしょうね。

アメノウズメノミコトに、どうあがいても元に戻ることはないある縛りを設けたのも見事だと思いました。

断固としてご都合主義なハッピーエンドにはしねえ、という強い意志を感じましたね。

もうね、8話目ぐらいから断続的に涙腺開きっぱなしですよ。

これが真夏のダムなら取水制限実施されてるレベルで滂沱の落涙。

こんなに俺、涙腺弱かったか?と自分でも疑問になるぐらい垂れ流しでしたね。

オカルトの取り扱いについてはね、あまりに不用意で幼稚だと思いましたが、神と人間の関係性を問うドラマ作りや、そこに仄かな恋愛感情を持ち込む作劇に脱帽ですね。

どこかSPEC(2010~)に似てる感じもありますが、SPECが尻すぼみなエンディングで消化不良だったことを考えると、後発とはいえ、間違いなくこのシリーズのほうが完成度は高い、と言えるでしょう。

小さな文句はもちろんあるんですが、それでも傑作

ラストシーンがある映画にそっくりだけど、見て損はなし、と断言します。

多分このドラマは藤原竜也をキャスティングした段階で、もう成功を約束されてた気がします。

いや、面白かった、普段ドラマを見ない人も是非。

ねじレート 90/100

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