ヴァチカンのエクソシスト

2023 アメリカ/イギリス/スペイン
監督 ジュリアス・エイバリー
脚本 マイケル・ペトローニ、エバン・スピリオトポウロス

実在したエクソシスト、ガブリエーレ・アモルト神父の回想録「エクソシストは語る」を映画化した一作。

序盤早々、ベスパに乗って公道を行くアモルト神父の姿を見た瞬間、あ、これは傑作、と思いました(笑ってしまうって)。

で、最後まで見てみて、ほんとに傑作だったのでびっくりした。

ここ数十年のエクソシスト映画の中で、突出してる、と言っていいんじゃないでしょうかね。

いやね、やってることにさほど新鮮味はないんです。

なんなら嚆矢たるフリードキンのエクソシスト(1973)とさほどかわらん、と暴論はいてもいいぐらい。

上出来だったのは、エクソシストという宗教的オカルトな存在を客観視し、科学及び医学を前提として否定から入ってみせたこと。

むしろ悪魔祓いより、心理誘導や暗示のほうが主人公、得意なんじゃないか?と見てて思えてくるのが巧みというか。

アモルト自身が「いやいや悪魔とか、そんじょそこらにいるわけないっしょ?」と冷めた目線なんですね。

ヴァチカン直属のエクソシストが「あ、これ精神科の分野」とか断じてるのがなんとも可笑しくて。

故に、これはどの角度から考えても悪魔の仕業としか思えない、という事例に、俄然信憑性が生じてくる。

悪魔憑きは悪魔憑きでも現象の掘り下げ方が慎重で、丁寧なんですよね。

また事件に、過去の忌まわしい出来事を絡めてくるシナリオも良く出来てる。

バチカンの闇にすら言及する勢いで伝奇ミステリ的なスリルを抱き合わせる作劇が、めっぽうやたらに面白くて。

古い話題で恐縮ですが、私なんかはふいにXファイル(1993~)を思い出したり。

ラッセル・クロウ演じるアモルト神父のキャラもいい。

実はめちゃくちゃ気骨があるんだけど、見た目の印象は小太りで気ままなオッサン、というのがどこか愛らしくてね。

ガチガチの宗教者なんだけど、宗教者に見えないのがなんだか親しみやすさを感じさせるんです(詐欺師を褒めるみたいな口調になってるな)。

肝心な悪魔との会話劇もテンプレートに堕さず、交渉術にも似た駆け引きがあって見応えたっぷり。

エンディングギリギリまで派手なVFXを使わない抑制された演出も考えられていていい。

いや、駄目なところが見つからんぞマジで、化けたなあジュリアス・エイバリー。

典型的なポップコーンムービー?であるオーヴァーロード(2018)のイメージしかなかったけど、いつのまにかすっかり本格派で。

これは続編撮れるね、いやマジで。

本来なら物語は、ヴァチカンに殉ずる人たちの目線で進んでしかるべきなのに、あえて強い宗教色をにじませないようにしてるのが連作向きですね。

というかエクソシスト(1973)の正当な続編はこの映画で良かったんじゃないか?とすら思えてくる。

何ら新しいことはやってないけど、きちんと背景を作り込んだ上で、丁寧な作劇、一本調子でないシナリオ運びを心がければまだまだ悪魔憑きもいける、と見せつけた好例。

ホラーファンならずとも楽しめる気がします。

特にエクソシスト信じる者(2023)に落胆した人は是非。

しかしこれ、一体どこまでが実話なんだろうな・・・。

ねじレート 89/100

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