2016~2019初出 詩野うら
エンターブレインビームコミックス

<収録短編>
有害無罪玩具
虚数時間の遊び
金魚の人魚は人魚の金魚
盆に復水 盆に帰らず

<収録短編>
日曜は水の町に
人魚川の点景
人間のように立つ
姉の顔の猫
現代路上神話
偽史山人伝
存在集
ウェブサイト「チラシのウラ漫画」に掲載されたものを加筆修正し、単行本化したもの。
発売当時、好事家の間で大きく話題になった2冊ですが、なるほどこりゃ確かに個性的だわ、と納得。
記憶をまさぐってみても「似ている漫画」が思いつかないんですよね。
ある意味すごいな、と。
しいていうなら70~80年代の、活況だった頃の国産活字SF作品群に近い質感はあるな、と思いました。
特に顕著なのは表題作でもある「有害無罪玩具」。
この手の思考実験って、筒井康隆を嚆矢とする一連の作家が得意なように思うんですね。
いやいや普通、漫画でこれをやろうと思わんだろ、って(褒め言葉です)。
中でも私が突出していると思ったのは「偽史山人伝」。
これって虚構の史実をでっち上げたマルチバース的な一作と言っていいんじゃないか、と。
ゼウスガーデン衰亡史(小林恭二)をふいに思い出したりなんかも。
東北のマタギと山中に潜む山人の歴史を現代まで仮想する、という着眼点が実に独特。
そうか、柳田國男でマルチバースか、と思わず笑みがこぼれてしまったり。
いささか残念だったのは、画力があんまり高くなくて全体的に見にくいのと、イラストと写植テキストの絵解きみたいな作品がいくつかあること。
ただでさえ文字量が多いんで、ページを追っていて疲れてくるんですよね。
たったの11話で同じキャラを使い回すのもあまり感心しない。
人魚とか道の神とか何度か出てくるんできっと作者が好きなんでしょうけどね、もうネタ切れ?みたいな印象を受けちゃうんで。
型破りでユニークなことをやってるのが色褪せて見えてくるんです。
ま、収録作品を選別した編集部の功罪もあるんでしょうけど。
どうあれ、同人でしかできない作品群であることは間違いないでしょうね。
商業誌はまず無理。
ただ、商業ベースを無視したところでこういう形での斬新なアプローチがあるなら、ウェブ漫画も侮れない、と私は思いました。
ちなみに半分以上の作品はSFではなくファンタジーなんで、そんなに構えなくともサクサク読めます。
意外と古い少女漫画ファンの支持を集めたりしそうな気もしますね。
小難しく、まわりくどくなりがちな台詞回しに好き嫌いは別れるかもしれませんが。