千の夏と夢

2018~2020初出 鯨庭
リイド社トーチコミックス

<収録短編>
いとしくておいしい
ばかな鬼
君はそれでも優しかった
僕のジル
千の夏と夢

架空の生物や物の怪など、人外と人との関わりを描いたSFファンタジー調の短編集。

どことなく、昔のますむらひろしが描きそうなお話だなあ、と思ったり。

ベースにあるのは間違いなく少女漫画なんですけど「現実的な民話」とでも言いたくなる手厳しさが特徴か。

やるせない、というかせつないというか、独特の読後感があるんですよね。

物語を紡ぐことに関しては、高い力量があるように思います。

特に「ばかな鬼」とか、知る人ぞ知る短編にしておくのは惜しいぐらいの完成度。

一番劇的だったのは「君はそれでも優しかった」なんですが、私がなんとも業が深いと思ったのは、これはこれで実によく出来ているにも関わらず、題材選びに萩尾望都ら先達を感じてしまうこと。

ほんとにもうあの頃の少女漫画家ってなんて巨大で底しれぬ怪物なんだろう、と思いますね。

独自の世界観を持つ漫画家だと思うんですけど、それでも嚆矢ではないと言い切れてしまうんだから。

ラストひとコマのセリフとか「最後の最後でそう言わせるのか!」と鳥肌ものだったんですが、そんな驚きの渦中にあってすら、彼女たちならこの物語をどうしただろう・・と考えてしまう自分がいるんですよ。

ついA-A’とか思い出したり。

作者が萩尾望都ら24年組を通過してるのかどうかはわからないですけど、少女漫画っぽいアプローチをやってる以上、比較されるのは避けられないでしょうね。

あとは画力がもう少し高ければなあ。

下手じゃないとは思うんですが、坂田靖子風の作画がね、テーマの割には頼りない感じがして。

龍やヒポグリフをもっと肉感的に描くことが出来ていたら、まるで印象が変わっていたように思うんですが、こればっかりは仕方がないか。

一度長編を読んでみたいですね。

詳しくは知らないんですけど、すでに熱心なファンがついてそうな気がします、この人。

しかしリイド社がこんな漫画を出すようになったのか、時代も変わったなあ。

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