黒巫鏡談

2023年初出 戸川四餡
エンターブレインハルタコミックス 1巻(以降続巻)

「黒衣の巫女」と呼ばれるシャーマンと、売れない怪奇作家の折伏道中を描いたオカルト・ホラー。

この作品が独特なのは、巫女が韓国人の少女で、怪奇作家が日本人、舞台は1930年代の占領下にある韓国、という設定と言っていいでしょうね。

朝鮮総督府が置かれている時代の韓国って、色々とエンタメに落とし込めない部分もあるし、コロナが蔓延する直前まで日韓の関係が決して良好とは言えなかったことを考えるなら、漫画の題材にするのはかなり勇気がいったように思うんです。

なにかひとつしくじれば、思いもよらぬ場所で激しく炎上しそうですしね。

賢明な漫画家なら思いついてもまず作品化しないんじゃないかと。

それをあえてやる、ってのはなにか思うところがあったのか、それとも内容に自信があったのか、ともあれ、おそらく過去に誰もやってない「シャーマンとバディの韓国心霊もの」というプロットを形にした実行力は素晴らしいと思います。

実際、韓国の巫女を、豊富な知見を背景に演出する手管は非常に新鮮でした。

沖縄のシャーマンと意外に共通点があったりしたのも発見で。

ハンマーを持ち、経文を唱えながらトランス状態で舞い踊る鬼神折伏の儀式の様相も、あんまり他所で見たことのないおどろおどろしさがあっていい。

なんだろ、オカルトの黒さが、西洋や日本とは違う黒なんですよね。

ま、ぶっちゃけやってることは鬼太郎の妖怪退治(鬼太郎は人じゃないけど)みたいなもんなんですけど、時代背景や異国感が他との差別化をはっきり明確に。

ハマる人はハマる気がしますね、この作品。

ただね、私は「これは高いオリジナリティがある!」と思いながらも、ちょっと冷めてたりはしたんですけどね。

というのも、バディキャラの怪奇作家がいささか残念な感じなもんだから。

いや、主人公少女のキャラはすごくいいんです。

出自も、巫女に身を捧げる理由も、隙のない作り込みだと思う。

そこに一切の問題はない。

怪奇作家がなあ、お調子者のバカにしか見えないんですよね。

巫女である少女と危険な道行きを共にする動機や理由が弱いし、いわゆる変わり者だから、でまとめるには変人ぶりに乏しい。

なんでバディがこんなキャラクターなの?と思ってしまう。

こやつのせいでせっかくのドラマが歪曲しちゃうんですよね。

重くなりすぎないように、との配慮なのかもしれませんが、怪奇作家キャラは完全に失敗だったと思います。

正直、もったいない、と思いますねえ。

今からキャラの挿げ替えとか出来ないだろうしね。

漫画家としての経験値の浅さが影響してるように思うんで、次作で捲土重来を期待。

頭のいい描き手だと思うんで、今後に期待していいと思いますね。

本作に関しては、私はちょっと無理なんで、申し訳ないですがあとはお好きな方たちでどうぞ。

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