2022年初出 うめーち
エンターブレイン青騎士コミックス 1~2巻(以降続巻)
バチカンから出禁をくらっている異端の悪魔祓い、チッチ兄弟を描いたオカルト・アクション。
しかし日本でここまで真正面からエクソシストの物語をやる、ってのはなかなか大胆だな、と。
フリードキン監督のエクソシスト(1973・映画)が悪魔祓いの概念を広く世界に知らしめたことは間違いないですが、神道やら仏教やら多宗教が混在する日本においては、悪魔憑きとか、決してメジャーとは言えない、と思うんですよ。
むしろ狐憑きや犬神憑きの方がよほど知られてるんじゃないか?って。
日本、といえばやはり呪縛霊やら守護霊やら貞子にうしろの百太郎で、異形と言えばせいぜい閻魔様や獄卒ぐらいで、妖怪にしたって現代的感覚で言えばほとんどポケモンと同等だろうしねえ。
なのでね、結構不利だと思うんですよね、特にホラー映画とか見ない人にとっては他所の国の出来事、と遠い目で読み飛ばされかねない。
そこをまず強引に振り向かせるところから始めなきゃいけないんで、望む、望まないに関わらず、敷居は高くなってる、と思うんですね。
どうしてもニッチな扱いになってしまうのは仕方ないか・・・と思うんですが、つい最近も悪魔祓いの映画を見た私みたいなホラー大好き人間からすればこの作品、なかなか興味深い設定がいくつかあって。
まず、悪魔の正体が目を媒介して感染する謎の寄生虫みたいなものと定義してるんです。
ウイルスなんだかプリオンなんだかわからんが不死で、撲滅することは不可能。
人間にできることは悪魔が発現しないように眠らせることのみ。
もしくは、同じような悪魔憑きに吸収させるか。
悪魔は、同じ悪魔を統合してより強い一個体になろうとする習性があるんですね(粘菌?)。
チッチ兄弟はその習性を利用して、悪魔祓いを生業としてるんです。
というのも実は兄弟、弟が悪魔憑きなんですね。
兄は弟の中に眠る悪魔を封じ込めたり、外に出したりコントロールできる解錠者という能力者で、弟の悪魔を他者の悪魔退治に利用しているわけです。
とはいえ、兄としては、本音でいうと弟の悪魔をさっさと祓ってしまいたい。
悪魔祓いを続けていたら、いつか弟の悪魔より強大な悪魔と出会って、弟は開放されるのでは・・と考えているんですね。
善良な町医者みたいに困ってる人たちを助けたい、とか考えてないんです。
ただ、弟を、自分の能力でもってなんとか救いたいだけ。
いや、これね、設定もさることながら、それぞれの登場人物の思惑が相克する、なかなかにディープな人間ドラマでね。
なんせバチカンや、市井の悪魔に憑かれた人間の言い分も絡んできますからね。
どうすることが一番正しいのか、それぞれの立場次第で幾通りもの正解があるものだから、一概にこれが良い、と言えないのが、物語を残酷で重層的にしてる、というか。
しかもね、2巻で更にがんじがらめな縛りを設けてきたりするんですよ、作者は。
もうね、ひどいバッドエンドが待ち受けてる気配しかしなくて。
ああ、嫌だ嫌だ、と、思いつつ、それでもここで読むのをやめるという選択はありえない。
いやはやシナリオ作りだけでもなかなかの力量があるように思いますね、作者は。
また、画力が高いのも高得点。
弟の悪魔を解錠するシーンや、悪魔が顕現するシーンとか、圧巻の迫力で。
イマジネーションを具現化する才にも長けている。
まだ断言はできないが(2巻までしか出てないからね)こりゃ20年代の大収穫と言ってもいい作品では・・・・・・!と、いいたいところなんですけどね、実はひとつだけ気になる点があって。
あのね、オカルトにしちゃあBL臭が濃い目なんですよね。
もともとBL漫画描いてた人らしいんですが、BLノリが抜けきってないのが男性である私にはきつくて。
ブラコン萌えとか無理だし、気味悪いし。
BL臭さえなければ大絶賛もやぶさかではなかったのですが・・・。
うーん、ままならんものだ。
ま、続きは読みます。
願わくば、物語のエンディングがBLな隈取りで陰影を結びませんように。
最後まで読むから、それだけは勘弁してくれ。