2024 日本
監督 白石和彌
脚本 加藤正人
今時珍しいぐらいきちんと時代劇なのは好感が持てる
古典落語が原案の時代劇。
とある理由で主家を終われ、貧乏生活を送る浪人、柳田格之進の金銭トラブルと敵討ちを同時に描いた作品。
今は亡き立川談志が「古すぎて現代に合わない」と口演しなかった話をリライトしたらしいんですが、時代劇を好む層って、もはや第一線からは退いた老輩ばかりなのでは(違ってたらごめん)と思うんで、あえて現代風にアレンジするよりも「なんだよこれ、黒澤明監督のオマージュか?!」って言いたくなるような真正面の古色蒼然だった方が逆にうけるのでは?と思ったりするんですけど、どうなんですかね?
若い人、見るのかなあ、時代劇。
テレビドラマからも完全撤退してるぐらいですしねえ(テレビそのものを若い人見てないだろうけどさ)。
私は若い頃「子連れ狼」にドハマリして以降、ずっと時代劇好きなんですけど、それ故に、この作品が、どういう部分で現代的なのか?が全然わからない。
私にとっては時代劇って、現代的もクソもないわけですよ。
今の価値観と合わなかろうが、理解しにくかろうが、当時の風俗や文化になるべく忠実に、今とは違った理不尽な社会に生きる人たちの生き様を描くのが時代劇だと思ってますから。
むしろ、おかしな現代的解釈を加味しないでくれ、と思う。
結局、今も時代劇を見る人って、コア層だと思うんで、そのコア層に向けてなにか斟酌したのか、それとも広い層に対する時代劇の復権を目論んでなにか勘案したのか、不透明なんで、令和の時代劇としてどうなの?という点に関しては一切言及できない。
私の印象としては別段突飛でもなければ新しいわけでもない、って感じ。
ま、ツボは抑えてますよね、コア層に鼻で笑われないだけの配慮は感じ取れる。
ともあれ、どこか人情噺っぽい「囲碁仲間との確執」を本筋としてるのは、映画としちゃあ大胆な方かな、と。
復讐劇を絡ませたのは、地味になりすぎないように、との計算でしょうね。
時代劇ファンとしては貧乏浪人の矜持が描かれている点にくすぐられましたが、最も特筆すべきは生真面目すぎるがゆえの弊害、融通がきかなすぎるがゆえの扱いにくさに焦点が当てられているところ、でしょうね。
これってSNS全盛の現代にも通じる話だと思うんです。
「正義中毒で信賞必罰な顔の見えない人たち」を強烈に皮肉ってる気もして。
あなたが振り下ろした拳は正義の鉄槌かもしれないが、それによって二度と立ち上がれなくなった人もいる、とこの作品は訴えかけているように思います。
ラストシーンが非常に印象的。
もし時代劇が現代のあわせ鏡だとするなら、この作品は見事にその役割を果たしている、と思いましたね。
想像以上の充分な見応えは、さすが白石和彌、といったところでしょうか。
あと、主演の草彅剛なんですけど、私は役者やってる彼を初めてみたんで(不勉強ですまん)正直序盤はものすごい違和感があった。
SMAP×SMAP内のコントみたいに見えちゃうんですよ。
無言で佇んでるシーンとか、寝てんじゃねえだろうなツヨシ!とユースケサンタマリアばりにツッコミたくなったり。
まあ、想像していたよりはうまいかな、と思いました。
動の演技というか、スイッチ入ったキレ芸(芸じゃないね、すまん)はなかなかの迫力だな、と。
欲を言うなら語らぬ演技がもうちょっと達者なら、と。
多分、先入観なんでしょうけど、天然ボケっぽく見えちゃうんですよね。
比して小泉今日子のあまりにもの飾らなさにはつくづく恐れ入ったり。
あんなに可愛かったキョンキョンが見事にババア。
しかも本人、やり手ババアに撮ってね、とばかり若さに執着してない。
なかなか居ないですよ、ライティングに一切こだわらず、役柄に忠実に振る舞う女優って。
見終わって、時代劇として抜け落ちてるものはない、と思いましたね。
ま、正直言うとね、あと1枚、何かがあればさらなる傑作になり得た、と思うんですけど、その1枚がなんなのか私にもわからないんで、これはこれで良しとしときましょう。
白石監督ファンなら見て損はないと思います。
ねじレート 80/100