2023 韓国
監督、脚本 ユ・ジェソン
最後の最後まで安直な憶測を許さない秀作
夢遊病にも似た睡眠中の異常行動を繰り返す夫と、夫の異常行動は本当に病気のせいなのか?と疑う妻を描いたホラー/スリラー。
中盤ぐらいまでは、ホラーどころか「病気も二人で克服するのよ!」って感じの新婚夫婦ドラマで、怖いどころか初々しすぎて、見てるこっちが気恥ずかしいわ!って感じなんですが、よくわからん霊能力者みたいなおばさんが登場して以降、物語は少しづつ色を変えていきます。
とはいえ一見助走段階のようにも感じられる前半、布石を打つのは上手だった、と思いますね。
夫の症状が、病気なのか、それともなにかに祟られでもしてるのか、どっちとも言えるギリギリの線を上手に突いてくるんです。
夜中に冷蔵庫開けて生で色んなものをむさぼり食うとか、寝てて顔面をかきむしるとか、不気味だけど合理的、医学的説明ができないわけじゃない。
奥さんがやたら前向きでポジティブシンキングな人、と印象付けたのもうまかったと思います。
それがあったからこそ、中盤以降の展開が俄然、熱を帯びてくる。
はっきり言って、当事者である夫より、妻のほうが怖い状態になってますからね、終盤。
おかしなことになってるのはダンナなのに、ダンナが懸命に嫁を諌める状況に思わず「逆やがな!」とツッコミ。
私が同じ状況だったら間違いなく別れるか、逃げるかしてる。
真っ直ぐで一生懸命な人が何かを盲目的に信じ込んじゃうと、こんなにもおぞましいことになるのか、と多くの人は震撼したんじゃないでしょうかね。
キャラの役割を倒置させるのが実に巧みで。
そのせいもあってか、もうね、どんどんわかんなくなっていくんですよ、この映画は心霊ものなのか、それとも病気が原因で壊れかけてる夫婦関係を描いた人間ドラマなのか、どっちなんだ?って。
一切のボロを出さないし、矛盾、齟齬もない。
本当に予測ができない。
多分こうなんだろうな、と欠片も想像させない映画を見たのは本当に久しぶり。
それゆえ最後の最後で明かされた真相には「そうきたか!」と膝を打ちました。
で、すごかったのは結末が、仮に全く逆でも成立していたと思わせる内容だったこと。
実際少し含みを持たせてましたしね。
終盤のワンシーン、妻の瞳に映る形でだけ、顛末を描いた演出は見事だったと思います。
深読みが得意な人なんかは、本当はすべて妻の心象風景、とか言い出しそうですし。
ま、多くの心霊ものと似たパターンをたどるお話(被害者が孤立する、周りが誰も信じてくれない)と言ってしまえばそのとおりなんですけど、最後の正念場で、完全なる無理解を力ずくでわからせる展開が独特なスパイスになってたように思いますね。
そこまでやるか、って。
これこそ韓国映画の熱量の高さならではか、と。
ただね、水を差すようですが、この「力ずく」がね、昔の話で恐縮なんですけど押切蓮介のサユリ(2010~)と全く発想同じだったりしまして。
サユリは2024年に白石晃士が映画化してますから(未見)、その相似性が気になるところ。
まさかユ・ジェソンがサユリ読んでるとも思えないんで偶然だと思うんですが、知ってる人はちょっとひっかかるかもしれません。
どうあれ、水準の高い一作だったことは確か。
高度な心理サスペンスと捉えることも可能かと思います、おすすめですね。
ちなみに一番怖かったのは結局嫁、と私は思ったんだけど、みなさんどうでした?
賢明なる諸兄の感想を聞きたいところ。
ねじレート 86/100