2022 デンマーク/オランダ
監督 クリスチャン・タフドルップ
脚本 クリスチャン・タフドルップ、マッズ・タフドルップ
ホラーでもスリラーでもなく、10年に1本の胸糞映画。見たことを本気で後悔したのは久しぶり。
原題がGaesterneで、デンマーク語でゲストという意味らしく、それがなぜ邦題「胸騒ぎ」になったのか、ちょっとよくわからないですね。
あまり「胸騒ぎ」と言う単語をご陽気な意味合いで使う人は少ないだろうとは思うんですが、私は最初、変化球なラブロマンスかな?となぜか思った。
恋してドキドキしてんのかな、って。
全く違った。
むしろ笑ってしまうぐらい真反対だった。
しかしこれが「胸騒ぎ」なあ・・・。
もう「胸騒ぎ」どころのレベルじゃないと思うんですけどね、作品内容からすれば。
というか、これ、胸は胸でも胸糞ですね、はっきり言って。
おまえはいったいどこのハネケなんだと。
つーか、ハネケはこの世に一人でいいから、と。
古い読者の方はご存知かと思うんですが、私はスプラッターホラー見ながらホルモン焼き食える人間で、救いがなく絶望的なエンディングにもそこそこ耐性がある方ですが、それでもね、この映画に関しちゃ正直吐き気がした。
グロいとか気色悪いとかじゃないんですよ、得体のしれない悪意が遮るものなく、ただただ溢れかえってるのが本当に胸クソ悪くて。
モラルとか正義とか常識とか1ミリも存在してませんからね。
何が目的なのかよくわかんないんですけど、サイコパス野郎の流儀に沿って粛々と事態が進行し、朴訥に収束していく95分でしたから。
描かれてるのは狂気の手触りにほかならない、と思いましたね。
で、これを楽しめる人が存在するのか?というのが私の最大の疑問で。
監督のタフドルップは実体験にこの映画のヒントを得たようですが、それが嫌な現実であったのならなおのこと、創作ぐらい逃げ道を用意しておいてやれよ、と思いますね。
社会経験の浅い若い人たちはどうかわかんないけど、私ぐらいオッサンになってくるとね、この世にはどうしようもなくぶっ壊れてて修正不可なキ◯ガイがいる、って知ってますから。
いくつになっても性善説を信じ続けるおめでたい人たちはともかくとして、現実にはね、普通の人が絶対に関わってはだめな理解の及ばぬ人種って、悲しいかな一定数存在するんですよね。
この映画がやってることは、そんなぶっ壊れた奴らの狂ったルーティンをこれでもかも見せつけることにほかならななくて。
なにかを啓蒙したかったのか、小さな選択ミスに注意喚起したかったのか知らないですけど、わざわざ映画で改めてほらこんなに頭おかしいよ?やばいよ?って教えてくれなくてもいい、って話で。
もうそんなのはね、勤労者として命を削る毎日や、これまでの人生で大なり小なり嫌と言うほど味わってきたことであって。
組織に属しているというくびきが、やばい連中の暴走を繋ぎ止めてるだけで、タガが外れたらね、なにするかわからんやつらって、多くの人の想像以上に社会に蠢いてますからね。
なんで創作の世界でまで見つめ直したくもない薄汚れた現実をがっつり追体験しなきゃなんないんだ、って思うわけですよ。
また作中の被害者夫婦が絵に書いたような平和ボケの奴隷根性な二人で。
拳銃も持ってない奴らに何も出来ず、生死がかかってるのに唯々諾々と言いつけに従う始末。
せめて一矢報いていたか、加害者目線のドラマであれば鑑賞後の印象もまた違ってたと思うんですが、主人公夫婦の夫、いじめないで、ってお願いしてる始末だもんなあ・・・ああ、情けない。
ま、実際にはこの物語のようなことがいつまでも続くはずがないですし(子供も馬鹿じゃないし)、計画性がなさすぎて間違いなく足がつくと思うんですけど、捕まることなく犯行を繰り返しているように見える作劇が、悪意をより色濃く浮かび上がらせてる気はしましたね。
露悪主義的でペシミスティックな一作。
監督は地獄のように底意地が悪いと思うんですけど、どうなんですかね、会ったことねえしなあ。
ちなみに一部の論客がエンディングの展開はキリスト教がどうのこうのって言ってましたが、どうでもいい、と私は思いました。
キリスト教で言えば問題作と言われたマザー!(2017)のほうがまだはるかに面白味がある、と思いましたね、私の場合。
見たことを本気で後悔したのは久しぶり、気持ち悪さを2、3日ひきずったわ。
あ、そういえばあらすじについて何も書いてなかったな、と今気づいたんですけど、もういいか。
劇伴が恐ろしく不穏なのに、まるで何も起こらないまま1時間ほど経過するシナリオ構成には「長えわ!」とちょっと笑いましたけどね。
ほんとそこだけだな、うん。
でもって、こういう作品に限って割と完成度高いのがなんとも。
ねじレート 嫌いすぎて採点不可