2023 フランス
監督 ジュスティーヌ・トリエ
脚本 ジュスティーヌ・トリエ、アルチュール・アラリ
ラスト数分の展開をどう見るかで全く色が変わってくる作品
視覚障害のある子供しか目撃者のいない、山荘での転落事件を描いたサスペンス。
侵入者や第三者が存在せず、家族3人しかそこにはいなかった、と言う設定が、先人達がこれまでに発表した古今東西のクローズド・サークルものを想起させるんですが、物語は意外とミステリな方向には進まず、早々に法廷劇へと舵を切ります。
死んだ男の妻が立件されちゃうんですね。
他の登場人物が目撃者である子供しかいないんで、さすがに駒が少なすぎてミステリもクソもないか、とあとから思い直したりはしたんですが、わざわざ見えない目撃者を手配したなら見えないことを真相にからませてほしかった、と思ったり。
ただそれも、この物語が法廷劇でサスペンスだと思うから生じるフラストレーションであって。
同様に、とにかくスッキリしないのが、裁判での決着を別にして真相をつまびらかにしないこと。
結局、妻は夫を殺したのか、殺してないのか?が最後までわからないんですよね。
夫婦の間の知られざる事実が次々に暴かれていって緊張感がある、見ごたえがある、と言われてますが、そんなのこの映画に始まったことじゃないし、法廷劇なら次々に新たな事実が浮かび上がってくるのは当たり前のことで。
じゃなきゃ会話だけで絵ズラがもたない。
裁判に出廷した参考人次第で、同じ景色が違って見えるのも当然だと思いますしね。
違う景色が新たな事実を浮かび上がらせたわけでもないですし、この程度の誤差はあってしかるべき。
裁判を有利に進めるための印象操作を題材にしている、というだけの話だと思うんです。
なのでね、初見ではなにがそんなに評価されてるのか?が私にはわからなかった。
カタルシスの得にくいモヤモヤする映画、としか思えなくて。
唯一引っかかったのは、ラストシーン。
犬の振る舞いがね、なんか腑に落ちなかったんです。
なんか気持ち悪いんで、終盤だけをもう一度、見直してみる。
そこで新たに気づいたことがひとつ。
・・・・・ひょっとしたらこの作品は、ラスト数分でとんでもない真実を語ってるんじゃないか?と。
正直自信はないです。
ともすれば見落としてしまいそうな所作が、それこそがヒントとばかり想像力を刺激しただけで。
ああ、この物語、実は見えない少年=社会的弱者であり善人、という先入観を逆手にとっていたのではないか、と。
見えないからこそ真実を知っていた、みたいなヒッチコック的オチじゃなくて、もっとドロドロと底知れぬ家族の闇を描いてたんじゃないか、と。
もし私の想像が正解なら、サスペンスやミステリというより、これハネケの隠された記憶(2005)とか、あの辺りに連なる系譜なんじゃないかと思います。
だとすると見えない少年が目撃者といういかにもなセールスポイントは、見事なミスリードだったことになる。
しかしまあ、ラスト数分にすべてを賭けるか?って。
ひとつだけ言っておきたいのは、ものすごくわかりにくいし、直裁な示唆が全く無いんで想像で物を言うしかない、ってこと。
よくぞまあこんな映像作品を設計したものだ、と素直に感心はしますが、かといってですよ、じゃあ面白かったですか?と問われると微妙なところなのが困った点でね。
作品のテーマと言うか、題材選びにそこまでのれない、というのが私の場合、あった。
ま、好みでしょうね。
うーん、カンヌは好きかもな、こういうの。
この物語を「落下の解剖学」とタイトルするセンスはいいと思います。
ねじレート 78/100