2023 中国
監督 グオ・ファン
原作 劉慈欣

圧倒的なスケールとド派手な映像、SFならではの想像性が噛み合った中華SFの傑作
アジア人で初めてヒューゴー賞を受賞した「三体」を執筆した中国人作家、劉慈欣の短編「さまよえる地球」を映像化したSF巨編。
三体、気になってるんですが、老眼ひどくて活字読めないんで、どれほどのものなのかさっぱりわからないんですけど、ヒューゴー賞を受賞してる、って事実だけで生半可なものではないんだろうな、って想像はつきます。
だって日本人作家の誰一人としてヒューゴー賞、かすりもしなかったんだから。
ま、時代が時代ですんでね、日本国内で活字SFが最も盛んだった70~90年代ぐらいまでは、有色人種差別みたいなものもあったのかもしれませんが、2015年に「三体」が受賞して以降、現在までアジア人の受賞が全く無い事実を鑑みるに、やはり劉慈欣、図抜けていたんだろうな、と。
なんせ「三体」の大ヒットで中国にSFブームが到来したほどですからね。
でなきゃ65億円も注ぎ込んで本作が制作されるはずもなく。
中国映画は共産党の検閲をくぐり抜けるために、時代劇かSF(ファンタジー)を撮れ、と関係者の間ではささやかれてるようですが、その意味ではど真ん中SFの本作は、制作側にとっておかしな配慮をせず映像化に打ち込めた一作だったのかもしれません。
で、私は知らなかったんですが、この映画、実はパート2なんだとか。
1作目が「流転の地球」(副題なし)のタイトルで、NETFLIXにて2019年に公開されていたらしく。
多分、視聴回数、満足いくものだったんでしょうね。
こりゃ、続編もいけるぞ、と踏んだんだろうな。
ただ続編といえども内容的には1作目の前日譚となっているので、NETFLIX契約してなくても(見てなくても)全然大丈夫です。
私も見てないけど普通にストーリー理解できました。
173分の大ボリュームな作品なんでね、それなりに覚悟して視聴に臨んだんですけど、やっぱり見てて私が一番感心したのは想像してた以上に本格SFだったこと。
中華作品って、これまでがこれまでだから金かかってるからといって確実に期待に答えてくれるってわけでもないんで。
打率はね、相当低いと思うんですよ「もう君は独立リーグでやったほうがいい」と肩叩きされる寸前というか。
MEGザ・モンスター(2018、中国資本)みたいな感じだったらいやだなあ、と思ってたんですけど、もうそんなの完全に杞憂というか、むしろインターステラー(2014)あたりにも肉薄せんばかりの出来で心底びっくり。
ここまでやれるようになったのか、中国映画!って。
悲しいかな、日本じゃこの規模、このレベルのSF映画は作れないと思いますね。
いつの間にか完全に置いていかれてる。
CGやVFXの大盤振る舞い、完成度がハリウッドと比べて遜色ないことにも驚いた。
デザイン性みたいな部分でいささか武骨というか、ちょっと前時代っぽいかな、と思う部分はあるんですけど、こうも手抜き無しで細部にまでこだわって仕上げてくるとは思わなかったですね。
特に前半のクライマックス、軌道エレバーター爆破事件を巡る攻防を描いた場面なんて、手に汗握るド派手な一大スペクタクルで、中華SF映画の底力を見せつけたといっても過言ではない華々しさでしたし。
軌道エレベーターが落ちるシーンなんて、映像化されたことなかったと思うんですよ、これまで。
そもそも軌道エレベーター自体が珍しいわけだから。
想像に想像を重ねるうえで的外れになってない、きっとこんな感じなんだろうな・・・と思わせるって、きちんとした下調べやシュミレーションを重ねていないと無理だと思うんですね。
時間をかけて真摯に取り組んでるのが伝わってくる。
終盤のデジタル生命がルートーサーバー復活に関わるストーリー展開にも舌を巻きました。
最後の最後にそういう形で前フリ(伏線)を回収するか!って。
ああ、これこそがSFでしか語れない帰結だ、としみじみ感心。
また、中盤の月爆破計画で、わかりやすい自己犠牲な感動路線ながらも、涙腺決壊を目論むシナリオ運びに「うまいなあ・・」と感心したりも。
わかっててもやられちゃう、と思うんですね、こういうのって。
もう、173分があっという間。
中だるみしないんですよね、ドラマとスリルが見事に噛み合ってて。
ただね、終始完璧で懸念がないわけではなくて。
移山計画(地球に一万基のロケットエンジンを設置して、地球ごと太陽系を脱出する)の科学的信憑性、現実味がいささか薄弱に思えることは否定できないと思いますし。
ガチガチのリアリストは多分言うと思うんですよ、そんなのできるわけがない、って。
私も少なからずそう思いますしね、いや、ちょっと無理があるのでは・・みたいな。
あまりにスケールがでかすぎて、疑似科学の大風呂敷なハッタリだと思って楽しめばいい・・とまでは、なかなかね、思えない部分もあるかもしれません。
あと変なナショナリズムが香るのが嫌、と言う人も少しはいるかも。
この映画で描かれてる中国って、全然現実と違いますからね、まあ、そこは制作者側が共産党のご機嫌を伺ったのかもしれませんけどね。
でもね、そういうのを全部ひっくるめてね、そんなことでこの映画を楽しめないのは損、と私は思うんですよね。
今、ないですよ、ここまで意識が外へ向いた壮大なSFって(終末SFですけどね)。
SF映画がまだ元気だった頃のボルテージを感じました。
ちなみに本作のことを妖星ゴラス(1962)だ、って言ってる人がたくさんいますが、私は未見。
機会があれば見比べてみよう、と思ってます。
ねじレート 90/100