ザ・タワー

2022 フランス
監督、脚本 ギョーム・ニクルー

突如立ち籠めた「闇」に飲まれ、外界から完全に孤立してしまった集合住宅のサバイバルを描くSFスリラー。

「闇」が物理的にマンションを遮断し、外へ出ようとすると境界で肉体を損壊する、としたアイディアはなかなか面白かったと思うんです。

漂流教室っぽい、っていう人もいるかと思うんですけど、閉鎖的シチュエーションの演出に「闇」ってのが強い拒絶感、絶望感を感じさせてなんかいい。

で、こういう映画の場合、一番肝心なのはやはり謎解きだと思うんですよね。

マンションに閉じ込められたままずっと生きていけるはずもないんで、主役か準主役の頭の切れる登場人物が現象を考察、および探求、やがて原因を特定、そして決死の脱出を試みる、というのが物語のセオリーかと思うんですよ。

さて、どいつがキーマンなんだろ、いったいどうやってこの奇怪な現象を解き明かしていくつもりなんだろ?と興味津々。

そしたらだ。

序盤早々にいきなりお話が5ヶ月とんだ

いやいやいやいや。

最初の5ヶ月間とか、最大の見せ場じゃねえかよ、って。

混乱と喧騒、対立と小康を描かずしてどうする、と。

なんかね、なんとなく生き延びて、それぞれに徒党を組んで落ち着いちゃってるし。

断言しよう。

非常用の食料を備蓄している家庭であってすら、何十人という隣人と平等に食料を分け合っていたら1ヶ月と生き延びることはできないだろう。

それともなにか?このマンションはすべての住人が災害時を想定して食い物溜め込んでたってか?

それに5ヶ月も太陽光浴びてないとビタミンD欠乏症になるからね、マンション中病人だらけだから。

電気、ガス、水道が都合よくずっと生きたまま、ってのも納得いかない。

支払いはどうなってんだよ、戸別のメーター、検針員はどうやって見に来るんだよ、マンションまで。

一応ね、劇中では、家庭菜園とペットの肉で生き延びた、ってことになってるけど、普通に考えて無理だから、それ。

あと、何よりも気になったのが、この現象を解き明かすそぶりを物語が全く見せないこと。

えっ、全員あきらめちゃうわけ?この生殺しな状況に甘んじるわけ?と驚いてたら、今度はいきなりお話が2年とんだ

えー、もはやファンタジーです。

いくらライフラインが生きてるからって、2年も生き延びれるはずがない。

最終的にお話は5年後まで続くんですけどね、出足から矛盾を抱えたまま無理矢理走ってるような状況ですんで、もう何を見せられてるのか、よくわからなくてね。

何百年も漂流した巨大宇宙船の中で世代交代が進んだ挙げ句、乗組員が原始共同体化して知性のかけらもなくなってた、なんてSFが昔はちょくちょくありましたが、監督はそれをマンションでやりたかったのかもしれませんね。

ひょっとしたらSF核戦争後の未来/スレッズ(1984)がお手本だったのかもなあ。

恐ろしく詰めが甘く、ストーリーに起伏がないのを除けば構成はそっくりだし。

ひとつだけ不思議だったのが、なぜか登場人物に他者を呪うことのできるシャーマンがいた事。

どういう役割だったんだ、あのシャーマン。

物語に全く貢献してなかったんだけど。

ま、ラストの突き放し方はそれなりにショッキングで悪くはなかったんですが、エンディングに至るまでの浅慮ぶりが全力でB級でしたね。

最初あらすじを読んだときは面白そうな舞台設定、と思ったんだけどなあ、釣られたわ。

ちなみに今、思い出したんですが、その肝心の舞台設定も石川優吾の漫画、スプライト(2009~)にすごく似てる。

まさか監督が読んでるとは思えないけど・・・どちらにせよ、あんまりおすすめできない一作ですかね。

ねじレート 52/100

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