ボーはおそれている

2023 アメリカ
監督、脚本 アリ・アスター

偶発的なあらゆる出来事に妨害され、離れて暮らす母に会いに行くだけのことがさっぱり叶わない中年男の悲喜こもごもを描いたシュールなコメディ。

あー、こっちへ行っちゃったか、アリ・アスター、と。

わかる人にしかわからんのを承知で書きますが、作家性の強い監督ほど「これまでの自分を超えなきゃならん」と思うのか、それとも「観客を裏切らなきゃならん」と思うのか、内へ内へと虚々実々な心理劇に手を染めがちな気がしますね。

アリ・アスター、アメリカでどういう評価なのか、よくわかりませんけどね、とりあえず日本においては、過大に評価されすぎだと私は思うんですよね。

ミッドサマー(2019)、そんなにすごかったか?って。

やってることはウィッカーマン(1973)やん、以前にも書いたけど。

ヘレディタリー(2018)しかり。

まだ彼は、誰にも文句が言えないような傑作をものにしてない、と思うんですよね。

優れていない、とは言いませんけど、鬼才だの天才だのともてはやされるほどすごいことはやってない。

なんかね、周りの期待だけが本人の力量以上に膨れ上がって巨大なプレッシャーとなっていたのでは、という気がするんですよね。

もしくは周りの賛辞に気を良くして、勘違いしちゃったか。

どちらにせよ、こんな内省的な映画にA24は過去最大の制作費(3500万ドル)を注ぎ込んじゃいけない。

当たるわけねえじゃねえかよ、こんなややこしい映画。

さすがのA24も今回ばかりは見誤ったか。

ま、つまらない、とはいいません。

現実なのか妄想なのかよくわからない描写が延々続くのにちょっと疲れる、ってのはありますが、現実を逸脱しすぎないよう、それなりに配慮してる(わけわからんひどい飛躍や突飛さがない)のはバランス感覚がいいと思うし、不思議の国のアリスのような奇想天外?なユーモアが楽しいというのも認める。

ただね、いい歳をしたおっさんが主人公、というのが失敗だったと思いますね。

ホアキン・フェニックスは熱演でしたよ、熱演でしたけどね、おっさんが苦悩しようが母親と会えなかろうがどうでもいいからね、大多数の人は。

私も見事なおっさんで同類ですけど、同類でもどうでもいい、と思いますもん。

いやこれは同類故にそう思うのかな?わからんけど。

むしろかえってね、お前、いい歳してんだからもう少ししっかりしろ!とイライラしてくる。

ましてや結局は、共依存だか毒親なんだかわからんけど母親との長年の確執がテーマだった、なんて落とし所が待ち受けてるとね、知らんがな、としか言いようがなくてね。

なんで主人公をもう少し若い人にしなかったんですかね、監督は。

こんなの、最終的に救われようが落ちぶれようがどのみち将来的な希望はないわけだから、年齢的に。

こんな年になるまで母親との関係を改善してこなかった男のことを、世間では手遅れというわけです。

つまるところ主人公ボーに共感できない

実は主人公、精神疾患か、生来の心神耗弱という裏設定なのかもしれないですけどね、それならそれでなぜこんなストーリーにした?と逆に私は思いますし。

病気のおっさんをいじめてるだけの物語になっちゃってるしね、現状だと。

ここまで凄まじく救いがないと、心象風景だろうが、ボーにとっての現実だろうが、到底第三者の理解はとどかないですよ。

うーん、独りよがりだったかな、と思いますね、今回ばかりは。

いかにアレックス・ガーランドの作劇がすごいか、を再認識した気がしましたね。

力の入った大作だと思いますが、楽しめる人は少ないように思います。

こういうのって、たいていスベるんだよなあ・・・。

お好きな人はお好きなんでしょうけど、私はもういいかな。

ねじレート 70/100

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