2022 フランス/リトアニア/ベルギー
監督 クリスティーナ・ブオジーテ、ブルーノ・サンペル
脚本 クリスティーナ・ブオジーテ、ブルーノ・サンペル、ブライアン・クラーク
ナウシカとの相似性云々はさておき、持たざる少女が懸命に生き抜く姿が忍びない
生態系が崩壊した未来の地球で、寝たきりの父親と二人で暮らす少女ヴェスパーの抑圧された暮らしを描くディストピアSF。
実写版ナウシカだ!と一部で話題になりましたが、まあ、世界観は似てなくはない。
食用の植物や動物が絶滅し、謎の植物相に支配された森の光景や、前世紀の遺物と思われるテクノロジー、おそらく手に入る素材を使って作ったであろう小道具、器具等、風の谷や腐海の森を連想させなくはないです。
ただこの物語には王蟲もいなけりゃメーヴェもないんで。
ポスターのキーヴィジュアルになってるタコの化け物みたいなのが動き回ってるわけでもないので、基本地味で暗いです。
なぜか寝たきりのオヤジが、ふわふわと宙を飛ぶ巨大サイコロみたいなのに意識を載せて娘と行動を共にしてますが、これがなんなのかはよくわからない。
いろんな局面であれこれ娘にアドバイスはするんですが、武器を積んでるわけでも荷物が運べるわけでもないので恐ろしく役立たずだったりはします。
ヴェスパーは城塞都市シタデルから支給される一世代のみ実をつける植物の種に頼って暮らしてるんですが、当然そこには貧富の差、階級差が存在してまして。
主人公のような子供が出来ることは恐ろしく少なくて(オヤジが寝たきりときてはなおさら)地域の実力者ヨナスに血を売って、種と引き換えるしか生きていくすべがない。
つまりこの物語は底辺にあえぐ持たざるナウシカの物語と言っていいのかもしれません。
こんなのどうやって打開するの?ってところから、少女が少しづつ道を切り開いていくストーリー展開が見どころ、と言っていいでしょう。
とりあえず私は、リトアニアの映画なんてほぼ見たことがなかったんで、こんなガチのSF作品がいきなり飛び出してきたことにまずは驚きでしたね。
決して潤沢な資金があったわけじゃないだろうに、想像以上にVFXがちゃんとしてるのにも驚いた。
いかにもな作り物感がないんですよね。
すごく気を使って加工してると思いますね、これ。
デジタル技術の普及がこうやって世界の知られざる才能をも拾い上げていくことが、実に感慨深かったり。
また、よくある未来世界の構造だったりはするんですが、明日の食事にも困窮する人がいる一方で、支配階層は人工生命体ジャグにかしづかれていて、違法に知能を持ったジャグすら存在する、というのも何かが起こりそうな気配があって、仮想の物語ならではの磁力を感じましたね。
描かれているのは貧すれども探究心豊かで決して手折れぬ少女の姿。
そんな少女の真っ直ぐさもナウシカを想起させるといえばそうかも。
泥にまみれ、虐げられながらも、偶然の出会いから突破口を見出すヴェスパーの危うい生き様は、幼いがゆえに見ててハラハラすることの連続です。
その存在がモブでしかない(下手すりゃそれ以下かも)のが強調されているから、余計に感情移入してしまうというかね。
故に終盤のすべてから解き放たれたかのような展開は、まさに希望を絵にしたかのような美しさがあって感動的。
派手でも斬新でもないとは思いますが、何者でもなかった少女が世界を変えてしまう物語として秀逸だったと思いますね。
私はSFに甘いんで、こういう作品が旧ソビエト圏の国で制作されただけでうれしかったりはするんですけどね。
ナウシカとの相似性があるとはいえ、意外とジブリファンより古いSFファンの方が刺さりそうな内容です。
余談ですが主演を努めたラフィエラ・チャップマンはRIZINとかに出てるRENAによく似てる。
ワンツーからハイキックのコンビネーションできそう(できねえよ)。
似通ったプロットの多い低予算三文SF映画の中では頭一つ抜けてるように思いましたね。
不親切さや至らなさも込みで私は好きだし、将来性を買う、といったところでしょうか。
ねじレート 80/100