日本 2023
監督 是枝裕和
脚本 坂元裕二
誰にも予測できなかった顛末が心を揺さぶる
子ども同士の揉め事を端緒とする学校ぐるみの騒動を、登場人物それぞれの視点で描いた人間ドラマ。
同じ事件とはいえ、『当事者』『実際その場に居た人』『伝聞で事件をあとから知った人』それぞれで、全く様相が違って見えてくる、とした三部構成のシナリオは圧巻という他なかったですね。
サスペンスでこういった手法を目にすることはありますが、なんてことのない子どものトラブルが視座によってここまで違う意味をもつのか、と戦慄でした。
もうほんと我々はね、ネットで聞きかじった程度のことでわかった風な口を聞いちゃいけない、とつくづく思いました。
ある意味、これは想像力に欠けた不寛容な正義中毒共への痛烈な皮肉なのかも、と思えてきたり。
とにかく前半は、学校の先生があまりに大変すぎて立ち眩みがしてくる物語進行の連続でした。
教育に熱心じゃないとか、志が低いとかそういうレベルの話じゃなく、叩かれすぎておかしくなっちゃってるもん、偉い人達が。
親の気持ちもわかるんですけどね、20代30代の教師に求めるものがあまりに甚大すぎ。
こんなの他に社会経験のない若い子がうまく立ち回るのは絶対に無理ですよ。
私が子供の頃は学校の教師といえば平気で生徒をぶん殴るものでしたが、ぶん殴りたくなる気持ちもわかるな、これはと。
子供は何もされないのをわかっていて、平気で嘘吐きますからね。
金八でも連れてこないことには事態の収拾は不可能なのではないか?と私は思ったりした(余計にこじれるって?)。
で、この物語がすごかったのは、なぜ子どもたちは正直に心の内を話さなかったのか?という点において、誰もがひどく納得しうる衝撃の事実を突きつけてきたこと。
教師と学校の問題のように見えることすら実はミス・リードだった、という物語構造に私は舌を巻いた。
俺、もう完全に騙されちゃってるじゃん、って。
いや、騙すとかじゃないのかもしれないけど、ミステリ的醍醐味があったことは確か。
ある種、全員が勘違いしてるんですよね。
でもその勘違いを是正する術はないし、勘違いであることに気づく瞬間すらない、ってのがこのお話の見事さで。
なんて教育って大変なんだろう、と呆然としましたね、私は。
こんなことまでケアできねえよ、って。
脚本を担当した坂元裕二はよくぞこの題材、テーマで、こういう形の物語を紡いだことだと思う。
ちょっと褒め過ぎかもしれないですが、これは誰にも想像できないオチだったし、それゆえにひどく切実に子どもの現実を訴えかける顛末でもあった。
ラストシーン、恐ろしく意味深です。
色んな解釈ができると思う。
ともあれ是枝監督、新境地、と思いましたね。
万引き家族(2018)とベイビー・ブローカー(2022)が似たような感じだったので(私にとっては)、限界なのかなあ、などと思ってましたが、良い脚本を得て今回は水を得た魚のよう。
やっぱりこういう映画を撮らせたらうまい、と再認識。
あと余談ですが、安藤サクラは日本アカデミー最優秀女優賞を受賞するほど映画にとってとても重要な演技をしていた、ってわけでもないと思いますね。
安藤サクラならこれぐらいはやるだろ、と。
意外性という意味では田中裕子のほうがなんだか怖かった。
よくわからんキャラでしたけどね。
脚本の力が圧倒的な傑作だと思います。
是枝監督、苦手な人も是非。
ねじレート 90/100