カナダ/ギリシャ 2022
監督、脚本 デヴィッド・クローネンバーグ
孤高のカルト映像作家が華々しく帰還
遠い未来だか別の世界線なんだかわからんが、人工的な環境にさらされ、それに適応した結果、痛覚を失った人類の新たな娯楽とその行く末を描いたSF大作。
もうね、シンプルに驚きましたよ、私は。
クローネンバーグはいまだクローネンバーグのままなのか!(わかる人はわかる筈)って。
だってね、この人もう80歳ですよ?
普通なら孫もいて、日々の気がかりは減らない薬と目減りする一方の自己資産ってなものですよ。
それがだ、この人はこの年で臓器にタトゥーして外科的に取り出してアートじゃね?なんてことを考えていたりするわけですよ。
はっきり言う、頭おかしいぞクローネンバーグ。
息子のブランドンの映画見たときも、血は争えんなあ、頭おかしいなあと思ったけど、初代?はその息子すらぶっちぎりで老境にてますます盛ん。
断言しよう、80歳でこんな変態SF映画撮る監督は世界に存在しません。
だってね、体内に機能のわからない新臓器が定期的に発現し、それを切除手術する場面を観客に見せてアーティストだと呼ばれる男の話なんですよ?
普段、何を考えていたらこんなこと思いつくんだ、って。
マップ・トゥ・ザ・スターズ(2014)を最後として、その前作、前々作があんな感じだったから、もう内臓感覚満載なグロいSFは撮らないんだろうな、と思ってたんだけど全然そんな事なかった。
更生したように見えて(何からだ)、ずっとこの人の頭の中にはぐちゃぐちゃドロドロしたものが渦巻いてたんだなあ・・・と。
ま、乱暴にいうならばビデオドローム(1982)とイグジステンズ(1999)を足してクラッシュ(1996)で割ったようなものですよ、この映画って。
特にブレックファスターチェアーやサークの造形、操作性ときたらまさにあの頃のクローネンバーグそのまま。
もはや今の時代、場違いでは?言いたくなるほど孤高でクセだらけの映画でね。
こんなの広くおすすめできるはずもない、というか人前で「こういうのを待っていた!」とか言っちゃって大丈夫なのか?と懸念するほどイカれてるのは間違いないんだけど、全国の高齢化したクローネンバーグファンは絶対に「キタキタキタキタ~!」ってなってると思いますね、おそらくね。
だって我々が80年代に衝撃を受けたクローネンバーグって、疑いの余地なくこれだから。
でね、すごかったのは、原点回帰のように見せかけて、整合性が向上、及び、シナリオの意外性、ストーリーの帰着がこれまでにない水準にあること。
ヴィゴ・モーテンセンをキャスティングしたのも大きかったかもしれないですね。
昔のクローネンバーグならこの物語に犯罪映画っぽい要素とか忍ばせなかった、と思うんですよ。
そういう意味ではヒストリー・オブ・バイオレンス(2005)を何処か意識した部分もあったのかもしれない。
ちょっとまて、集大成じゃねえかよ、って。
エンディング、散りばめられた断片的なピースが意味をなして収斂、結実しているのを観て、ついにやった!と私は思いましたね。
クローネンバーグが長年探求してきたフェチズム満載の奇妙なSFがついに結末の時を迎えた気がします。
戦慄の絆(1988)が最高傑作と思ってましたが、双璧をなす一作と言っていいんじゃないでしょうか。
クローネンバーグ初心者はうかつに触れると火傷かもしれんけど。
ねじレート 92/100