1988年初出 手塚治虫

三作ある遺作のうちのひとつ。
第2部の第1回を描き進めたぐらいのところで絶筆。
ああ、いいところで終わってるなあ、とはがゆいかぎりなんですが、作品自体の完成度はちょっと危うい感じも。
ファウストの現代版をやろうという意図があったのだと思うんですが、自分で作った設定に振り回されて第1部の終盤はかなりきわどい印象あり。
何とか取り繕って第2部に筆を進め、さあこれから、というところで亡くなられてしまったので、何とも評価のしようがない、というのが正直なところ。
先生の場合、連載時と単行本化されたときでは全く内容が異なる、というケースもザラなので、さらなる推敲を経ていないもの、と考えれば、化ける可能性は充分にあった、というべきかもしれません。
なにより後半は病院のベッドの上で描いた、という逸話を聞くと、どうしてもシビアな論調では語れない、ってのはあります。
ファウストをモチーフにした作品は先生の作品カタログの中でも他にいくつかありますんで、ああ、決着をつけたかったんだなあ、などと思ったりも。
遺作だから、と手放しで絶賛するのは逆に失礼だ、と思いはするんですが、感情の部分で、どうしても特別視しちゃう、ってのはありますね、やはり。
最後の最後までそのクリエィティビティは衰えることはなかった、という部分でただ感服するばかりです。