1988年初版 杉浦日向子
新潮文庫

現代のお話ではなく、主に江戸時代?の怪異譚を集めた小話集であることから、どっちかというと耳袋風というか日本昔話風ではあるんですが、そこに杉浦日向子の筆致が加わるんでどこにもない99話になってることは間違いないです。
初期に比べて絵が洗練されてきおり、意図的に大ゴマもたくさん使ってるんで、どこか凛とした質感があるというか。
怖いというより、摩訶不思議って感じですね。
私がなるほどなあ、と思ったのは、どのお話も種明かしをしてないこと。
霊能だかなんだかしらんけど、よくわからない連中がしたり顔で「これは先祖の霊が」とか「地縛霊の因縁が」とか言い放ったりしない。
こういうことがありましたが、そんなこともあるものなんでしょうなあ、で終わってる。
なんでもスッキリさせたい、どんなことにも原因があるはず、と考える中途半端に潔癖な現代脳な人たちからすればむずむずするものが常につきまとうのかもしれませんが、私は怪異ってこんなもんだよな、と思った。
因果とか由縁が常に存在してるわけじゃない。
わかんないことはわかんないんですよ、と未知の領域に触れてしまったことを後暗く思う感覚こそが恐怖の端緒だと思うんで。
しみじみと奇妙なんですね。
どこか不思議な情緒さえ漂ってるのが、さすが杉浦日向子だと思う。
ホラーが恐怖を咀嚼するエンターティメントだとするなら、本書は恐怖のシルエットに触れるカタログブックなのではないか、と。
オチがない、と嘆く人もきっといるんでしょうけど、それこそが真骨頂と申し上げておきましょう。