2001年初出 福島聡
エンターブレインビームコミックス 全4巻
連作短編集。
基本、各話に繋がりや関連性はありませんが、第一話「触発」や第六話「宇宙パンダに情はあるか」等、続編が書かれている短編もあります。
特に「触発」は、作者自身が、描き漏らしていることがあるとでも思ったのか、計四話ほど続きが収録されていて、四巻最後を飾るお話も「触発」の後日談になってます。
実際のところ「触発」のインパクトはすごかったですしねえ。
いきなり少女で人殺しかよ、とびっくりした。
こんなの、いくら短編とはいえ収拾のつけようがないぞ、と思ってたら罪も業も日常も恋も全部フラットに描くという離れ業で乗り切っていくんだからすごいというか、こんなやり方があったのかと目からウロコというか。
関西圏でのお話にしたのも巧みといえば巧みだったかも。
高度成長期以前のドヤ街や田舎だったら、こんな風に人死にが軽いのもありそうな気も。
いやまあ、ね、突きつめるなら「ない」んだろうけどさ、そういう風に読ませてしまう力量がやっぱりすごいというか。
デビュー作「DAYDREAM BELIEVER」はさっぱり意味がわからんというか、面白くなかったんですが、物語の尺度を変えてやるだけでここまで違ってくるのか、と感心したのを覚えてます。
圧倒的にセンスを感じるのはやはり台詞回しで。
噛み合ってないようで不思議に噛み合ってるやり取りは、一部の女性漫画家のようでありながらも他に類を見ない切れ味、切り口のものが多くて。
はっ、とさせられることもしばしば。
短編なのに殆どのお話でオチがない、という突き放しっぷりながらも奇妙な余韻を残すのは、セリフの鋭角な磨かれ具合によるものが大きい。
この場面でぶった切ってしまうのか、みたいな驚きももちろんあるんですけどね。
編集が巧み、というのもあるな。
つまるところ、各話ともに非常に映画的なんですよね。
ヨーロッパでひっそり公開されて、日本じゃ単館上映されてる系、というのが近いかもしれない。
「憂鬱と薔薇」や「自動車天空に」はその典型なような気もする。
ちなみに私がすげー怖かったのが「想い出の夏」。
なんなんだ、この最後のセリフは、と鳥肌がたった。
ちなみにSFやギャグっぽいテイストの短編もいくつかあるんで、バラエティ豊かに楽しめるシリーズ、と言っていいんじゃないでしょうか。
作者の美点が詰まった四冊だと思いますね。